第十八話 翔太の放課後コーディネート大作戦
作品、間違ってないですよ。
急げ、急げっっっ!はやく、早く!奴が来る前にあいつと合流しないと!急げ、急ぐんだ!
僕は白色で包まれた階段を駆け上がる。姿勢を低くし空気抵抗を最大まで除去する。目指すは邂逅予定地点。
「はぁっ……はぁっ……」
ようやくそこまでたどり着き、肩で息をしながら扉を開く。
「おお、来たか。ほら、そこ座れよ」
彼は、もう準備は出来ているとでも言わんばかりに足を組み、僕を隣の椅子に座るよう促した。
「あ、あぁ……」
これから話すのは、とても重大な事。僕の、いや、およそ一千人の運命を突き動かす、ターニングポイントだ。
「で……」
彼は再び口を開いた。
「何を話すんだ?」
あぁ、そうだ。こいつには伝えていなかった。もしかしたら他の誰かに知られる可能性があったから。そして、今からそれを伝える。
「明日っ、白撫さんと出かけることになった、色々どうしようっっっっっっ!」
「し ら ねーーよ!自分で考えろっ!」
「…………と、いうことなんだけれども」
僕は翔太に事の顛末を話した。が。
「おう。で?」
帰ってきたのは冷たい返事。
「俺に自慢するためにこんな早くに学校に来させたわけか?」
そう、こんな早くである。現在時刻は午前七時過ぎ。
「いや、そうじゃなくて」
「じゃ、なんだよ」
「何着てけばいい?いくら持ってけばいい?」
翔太は僕の大事な大事な質問を聞くと、「はぁ?はぁ……はー」と、よくわからないため息のようなものを吐いた。
「…………問題集買いに行くだけだろ?適当にキャラTでも着てけよ」
「え?バカなの?翔太は女の子と出かける時にキャラT着ていくの?そんなにオタクこじらせてたの?」
「いや、お前じゃねーし」
「ぼくもこじらせてないけどね!?」
「まぁとにかく」と、翔太は両手をヒラヒラさせながら続けた。
「テキトーに犯罪にならない程度の服でも着てけばいいんじゃねえの?」
はぁ……これだから女子に困ってなさそうなサッカー部員は。
「だ、か、ら!その『テキトーに犯罪にならない程度の服』がわかんないから教えてくれって言ってんだよ!」
「……は?」
翔太がポカンとした表情を浮かべる。
「いや、そら、おま……ふつうにタンスに入ってる服で……」
あ、これ、本当に何を言っているのかわかってない奴の口調だ。
「……ねぇ君、服を『選ぶ』って知ってる?」
僕が親切に一から説明してあげようじゃあないか。
「いやそれくらい知ってるわ!てかそれ誰目線だよ!やめろよその目!うざったいわ!」
むぅ、なんだよ。知ってるのかよ。僕が聞きたいことを一から説明してあげるつもりだったのに。
「いや、知ってるなら教えてよ」
「……え?」
「いや、だから、服の」
翔太が、あぁ、なるほどといった風に指をパチンと鳴らした。なんだこいつ。
「服の選び方、かぁ〜〜」
「ザッツグレイト」
それに呼応するように、僕もパチンと鳴らした。
「何が『ザッツグレイト』だコラ、それぐらい自分で調べろや」
えっ……
「なんでだよ、教えてよ」
「やだよめんどくさい、それぐらいネットで調べたら出てくんだろ」
しょーがない。こうなったら説得して無理やり教えさせよう。
「さて翔太くん。ここで問題です」
「なんだよ」
翔太が訝しむようにこっちを見てきた。
「先人たちは、その知恵をどのようにして伝えてきたでしょう?」
「そら、文字で……」
「じゃあ、鉄砲は?」
「ん?あぁ、あれは種子島でポルトガル人が……」
「ザッツグレイト」
「お前それ好きなのな」
翔太は少しダルそうに頬杖をつく。
「いや、それはいいんだよ。で、鉄砲は直接伝えたわけだろう?」
「おう、そうだな」
「で、鉄砲は戦を大きく変えるほどの力を持っていた。とても大きな力を持つ、つまりは歴史においてそれほど重大な役割を持つものだ」
翔太が僕が言いたいことがわかっていないようで、「何いってんのお前」と僕をジト目で見つめてきた。
「はぁ……これだから鈍感野郎は」
「だーれが鈍感だ」
「で、やっぱり強い影響力を持つものって口から伝えられるわけじゃん?」
「まぁ、そうなるな、てか無視すんな」
「強い影響力イコール歴史上大事なものなわけじゃん?てことはさ」
僕は左手の人差し指をビシッと立てた。
「白撫さんと出かけることと同義だよね」
「何言ってんだお前バカか」
くっ……ここまで言っても教えてくれないとは……
「あ、お前今『くっ……ここまで言っても教えてくれないとは……』って考えたろ」
な、なぜバレた!?ていうか一語一句同じ!?なに?僕の周りの人はみんな超能力使えんの?普通じゃないの?……そんなことは置いといて……こういう時は、泣きつくに限るっ!
「ねぇー頼むよ翔太ー。教えてよ翔太だけが頼りなんだよー」
僕は席を立ち、翔太の足にしがみつく。
「だーもーうっとうしい!わかったよ教えてやるから離せ気持ち悪い!」
「ほんと!?」
「あぁ、ほんとだよほんと!だから早く離せ!」
「やりぃ!」
僕は「はぁ……」と手のひらを額に当てて首を横に振る翔太を無視してガッツポーズをした。
「いやー、やっぱり持つべきは頼もしい友だね!」
これで明日は安心だ!
「あ、言っとくけど俺何にも詳しくねーからな」
「えっ……」
翔太に衝撃の事実を伝えられた僕はその場で固まってしまった。
そして、放課後。翔太は今日、部活が休みらしく補習の前に買い物に来れた。よかったよかった。
「んじゃ……とりあえず本屋行くか」
え?こいつ何言ってんの?本屋に服は売ってねえよ。
「あ、勘違いすんなよ。理想のコーディネートを探しに行くだけだからな」
「なるほどね」
おお、コーディネートなんて言葉、僕が干渉する会話で出てくるのか!あんなの一部の彼女彼氏持ち陽キャだけが使うもんだと思ってたよ!
「ほら、行くぞ」
「へいよー」
と、エスカレーターに乗ろうとしたところで、翔太が歩みを止めた。
「うおっ、どうしたの翔太?」
「……俺、気づいちゃった」
翔太が真剣な表情で僕に言った。
「別に、俺ら自身で選ばなくても店員さんに決めて貰えばいいんじゃねえかな」
「……てんっさいかよ!」
さてはこいつ、IQ五十三万はあるな!
「そうと決まればさっさと行くぞ!」
「ここだな」
な、なんだここ……僕の生存本能が入るべきではないと告げている……
「さ、はいろうぜ」
「う、うん」
「いらっしゃいませー」
聞こえてきたのは明るい女性の声。
「あ、すみません、ちょっといいっすか」
翔太が近くにいた店員さんに声をかける。いやー、頼もしいね。いや、僕だって店員さんくらい話しかけれるよ……おい誰だよ今嘘だろって言ったやつ。
「こいつの服、見繕ってもらえませんかね」
「はい、お任せください!では、担当の者を呼んできますので、少々お待ちください」
た、担当?そんな専門職が……
「はい、お待たせいたしました」
少し経ってやってきたのは、綺麗なお姉さんだった。こりゃ、専門だわ。僕と対極すぎるね。
「恐れ入りますが、本日はどのようなコーディネートをお望みでしょうか?」
「いや、その」
「あー、なんか明日クラスの女子と買い物に行くみたいっす。その時に着ていく服が欲しいみたいで」
僕がコミュ障を発揮すると翔太がすかさず助け舟を出してくれた。グッジョブ!
「なるほど。では……」
正直、そこからは何も頭に入ってこなかった。もうどうでもいいよ、好きにしてくれ!
ということで、決まったらしいので指定された服を着てみた。
シャッと更衣室のカーテンを開け、視線を下ろして今自分が着ている服を確認する。
……なんか、無地の白いTシャツに胸ポケットの付いた紺で半袖の……ジャケット?だっけ?それに、黒のジーパン。
鏡で見てみたけど、いつもより脚が長く細く見える。
「お、おお、おおおお……」
僕っ、感激!
「ええ、いいですねぇ……ふふ、やっぱり素材がいい」
「そーなんすよねー。ま、雰囲気が暗くて影に溶け込みすぎてるから誰にもみられないんすけど。それに気づかないからあいつはダメなんすよね。性格は割と明るいんだけどな……どーして暗いのかなー」
「それは、視線がいつも下がってたりテンションが低いからじゃないですかねー。あとは、インドア派だったり」
「はは、全部当たってる」
ん?なんか二人が少し離れたところでこっちをみながらコソコソ談笑してる……なんだよ翔太、店員さんをナンパしてるのか。あとで叱っとくか。
「それでいいか?」
翔太がこっちに歩きながら聞いてきた。
「あー、うん、ダメとか言えないよ。オシャレは何にもわかんないから」
「よし、じゃあもう一回着替えてもってこい。会計だ」
こうして、翔太による『コーディネート大作戦』は終わった。そう呼んだのは僕だけだけどね。それも、心の中で。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日は違うパターンの異常だったので書けました。三日分書きました。頑張ったので褒めてください!
そうだ、皆さんはおしゃれ、詳しいですか?
え?僕?ええ、パーカー三着とジーパン三本を着回してますとも。というか、外なんて出ないです(キリッ
面白かったらブクマや……もういいや、この宣伝は飽きました。
面白かったら次も呼んでくださいね。