百六十九話 始まり始まり!
生徒たちがさまざまな色の花や巨大なモールなどで昇降口を飾り付けている中を僕と白撫さんは通り抜けていく。設置済みのスピーカーからは楽しげな音楽が流れ、早くから来ていた者はすでに着替えて同じように準備に明け暮れていた。こっちの幽霊メイクはおそらくお化け屋敷をやるクラスの生徒だろう、それから黒いベストを着たディーラー姿の彼の出し物はカジノ風ゲームコーナーなどか。みんながみんな個性ある服装で校内を駆けていく。
「皆さん楽しそうですね」
隣を歩く白撫さんもまた目を輝かせながら言う。僕らはまだ部屋から出てきたばかりで制服を着ているが、すぐにその雰囲気に袖を通すのだ。始めは恥ずかしがっていた白撫さんも、もしかしたらワクワクしているのかもしれない。
階段を上り、廊下を歩いていく。ずらっと並ぶ教室はちらっと見ただけでどこも思い思いのデザインを施してあり、とても凝っていることがわかる。
「じゃ、またあとでね」
「はい、今日はよろしくお願いします」
僕らは男子更衣室代わりの教室前で手を振って別れた。中へ入るとちょうど着替え終わったところの翔太と目が合った。
「おっす良夜」
「おはよう」
やっぱり似合うなこいつめ。
僕は表には出ないが一応制服が汚れてしまうと困るので執事服に白エプロンという服装に着替えた。そんな僕を翔太が見つめている。何か言いたげだねぇ!?
「やっぱお前にあわな」
「いいってもおお!!」
知ってるから! 何回も言わなくても! 自覚はあるからあ! それ本番で言うことじゃないでしょ!?
そんな風にやんややんやと騒ぎながら教室に入る。僕らは二日間ある文化祭の両日とも前半のシフトのために準備をあれこれとしなければならないのだ。
「わ、りょーくん!」
「あ、おはよう小鳥遊さん」
先に学校に来ていたんだろう、メイド服姿の小鳥遊さんが僕を見るなり駆け寄ってきた。
「今日は頑張ろうね!」
「あんまり人が来ないでくれるとうれしいなあ」
仕事は少ないに越したことはないからね!
軽い会話を交わしながらみんなで準備していく。飲み物に使う飲用水の貯蓄と温度を確認、電気ケトルをいくつか並べて設置。オーブンは緊急用に一つだけおいてあり、ほかは別の部屋の調理場にある。僕と白撫さんは二人で教室担当だ。正直言って一人でいい気もするけど何か足りなくなったりしたときに人手がいるのだそうだ。難しいね!
「すみません、お、おまたせしました」
メイド服に身を包んだ白撫さんが教室に入ってくる。いつもは綺麗という印象の強い彼女だが、カワイイに全振りされている衣装を着ている今日だけは『かわいいなあ』だけで僕の頭が支配される。かわいいなあ。
「おはよ! すごく似合ってるよ!」
「あぅ……あ、ありがとうございます……」
準備や練習の段階で白撫さんはあまりメイド服を着なかった。曰く「やっぱり恥ずかしいです」とのことらしい。それ故彼女のメイド服姿を見るのは2、3回目だ。
「ど、どうでしょうか……」
白撫さんは恥ずかしそうにしながら上目遣いで僕に聞いてきた。
「うん、似合ってるよ」
「……もう一声~!」
簡潔に返した僕をみて「ええマジかこいつ」みたいな顔をした小鳥遊さんが横やりを入れる。これ以上何を言えと……?
「えーと……かわいいと思う」
「ありがとうございます……」
「語彙力が貧弱すぎるねりょーくんは」
僕の言葉を聞いて二人が僕を見つめる。どうして褒めたら責められるんだろうか。
「良夜君はこういう人ですから」
「こういう人だもんね」
「ごめん『こういう』ってとこについて言及したいんだけど僕ってどんな人だと思われてんの?」
僕が聞くと、僕から視線をそらした二人が顔を見合わせて溜息を吐いた。おぉーいなんのアイコンタクトだそれぇ!
三人で準備や確認をおわらせ、一息つく。
「そういえば小鳥遊さんこっち手伝ってくれてたけどそっちの準備は大丈夫なの?」
「…………多分?」
首をこてんと傾げた小鳥遊さんが言う。ほんとに大丈夫かなあ。
少し雑談をしつつボーっとしていると教室や廊下に声が鳴り響いた。
『午前九時となりましたのでこれより才王高校文化祭を開催いたします』
換気用に少し開けている窓から外を覗いてみると、人が濁流のように流れ込んできているのが見えた。うちの文化祭ってそんなに需要あるの?
「すごい人ですね」
「暴徒がいなきゃいいねぇ」
「あら、未亜」
接客準備も終わっているんだろう、相模川さんが会話に飛び込んできた。すごい不安になること言うね君は……って待て待て。
「ねぇあれ優純さんじゃない?」
「ほんとだご主人じゃん」
その隣にいるのは一人の女性。うん、女性。女性────母さんやないかーい!
「なんで!? なんで母さんが一緒にいんの!?」
「ほんとだママだぁ!」
僕の右側にぴったりとくっつく小鳥遊さんがびっくりしながら言う。ほんとにびっくりだよなんで知り合ってんだよどういうつながりだよ!
そんな風にあれやこれやに驚く初日が幕を開けるのだった。
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