百六十五話 久々だけども
「…………何度見ても似合わねえな」
「知ってるんならなんで着せたの?」
翔太に連れられ『着替えろ』と渡されたのは以前着たことのあるスーツ。それに身を包んだ際の第一声がコレ。ほんと勘弁してほしいね。
「なんかもうお前裏でいいか? 一生調理しててくれよ。一応料理はできるんだろ?」
「一応ね、一応。まあずっと紅茶でも入れとくわ」
「そうしてくれ」
うん、これでいいはずだ。適材適所、全員が関わらなくちゃいけない文化祭においてはそれが正解だろう。でも、どこか負けた気がしてならない。
ということで僕は接客練習を免除となった。コーヒーと紅茶淹れる練習しとくか……?
「一ノ瀬、ちょっとこっち来て」
パパっと制服に着替えなおし更衣室として借りている隣の空き部屋を出たところで、廊下に立っている恐らく調理班であろう女子が声をかけてきた。
「ん、ちょっと行ってくる」
「あいよ」
一緒に部屋を出た翔太に送り出され、その女子の方へ向かう。
「吾野から聞いたけど、調理班になったんだよね」
「うん」
「ひなちゃん曰く生からの運用になる卵とか使っちゃだめらしいから、全部インスタント食品になったのを伝えとく」
なんかアレだ、保健関連のどうのこうのってやつだろう。さすがの才王高校もその辺はしっかりしているようだ。
「まあ詳しくは未亜に聞いてね、なんかめちゃくちゃ詳しかったから」
「了解」
相模川さん、インスタント食品マニアとかなのかな。割と一緒にいる時間長いように思えるけど、想像できないような一面もまだまだあるんだなぁ。そういえば、その相模川さんはどこに────
「何か変なこと考えてませんか」
「わあおびっくり」
教室に探しに行こうとした僕の目の前にお仕事モードで仏頂面の相模川さんが出現した。小鳥遊さんといいこの仏といい、どんな物理法則に従って動いてるんだろうね。
「私が取り扱いに詳しいのはすべてエイドアナライズの商品だからです。インスタント食品マニアとかではわかりませんよ」
ほえ~、勉強は苦手だけどそういうのは頭に入ってるんだ。自分の仕事はしっかり果たしてるんだなあ。
「やっぱり変なこと考えてるよね」
「いやそんなことないですけども」
「へー」
もしかしてうちの学校って超能力者を多く集めてたりする? いくら何でも僕の考え見通されすぎじゃない?
「まあいいや。来週あたりに搬入するからその時に保管場所と調理場、確認よろしくね。あと、これ」
相模川さんからステープラーでまとめられた数枚の紙を受け取る。軽く目を通した感じ、内容は保管方法や調理法などがまとまられたもののようだ。
「まどか~」
「は~い?」
僕が少し読んでいると、何を思ったのか相模川さんが白撫さんを教室から連れてきた。
「まどかもあれ読んどいてね!」
「え、私の分はないんですか?」
「普通に考えて無くない?」
「あなたの普通って少なくとも普通ではないですよね……」
やれやれと首を振りながらも納得した様子の白撫さんが僕の隣へ歩いてきた。なんで納得できたんだ今ので。普通に考えたら一人一つあってしかるべきだろ。
「良夜君、教室で座って見ませんか?」
「あ、うん」
いやまて僕も『あ、うん』じゃないんだよ。
いくつも脳裏に疑問を浮かべながら、すっかり名前呼びが定着した白撫さんと二人で教室に入る。この瞬間は毎回クラスメイトから射貫かれるような視線を感じる。ほんとにやめてほしい。
「私にも見せて―!」
接客練習が休憩に入ったのか、メイド姿の小鳥遊さんが僕に飛びついてきた。それ今衣装である必要なくない? 形から入るタイプなのかな。
「た、小鳥遊さん? 接客練習は終わったんですか?」
頬を引くつかせる白撫さんが言う。これまた両腕ちぎれかけるやつだろ。
「まだ集合できてないから練習始めてないんだ~。そういう白撫さんはどうなの?」
「私は今未亜から話を聞いていたところです。調理担当と接客担当どちらがいいか聞かれたので、調理担当を選びました」
じゃあ白撫さんも同じ仕事なんだ。もしかして隣に立ったりするのかな。
「……りょーくんは?」
「僕も調理担当になったよ」
「「えっ!!」」
「ほら、さ…………衣装、似合わないから」
「「あぁ……」」
この二人は僕がスーツを着ていたところを見たことがあるから僕にはアレが似合わないことを知っている。だからか、僕の言葉を聞いて二人は哀愁漂う相槌を打った。やめてくれよもっと悲しくなるだろ。
「人間って向き不向きあるからさ、うん。りょーくんが作るの、きっとおいしくなるよ!」
「私も、楽しみにしていますから!」
多分慰めだろう、そんな言葉をかけられる。
「インスタントだから誰が作っても一緒だよ……」
向き不向きなんてないんだよ、この世界には…………
「あ、ごめん……」
「ごめんなさい……」
謝られるとさらに心の傷が広がるッ!
「そ、そうだ! 練習始まる前に一回保管場所とか見といたら!?」
小鳥遊さんが強引に話題を変える。ありがたいけど、それでもさらに傷つくよね……
「ですね! 私も調理担当ですし、二人で一緒に行きましょう!」
「あ、そうだね」
間違ってたら訂正とかできるし一人よりその方がいいかもしれない。
「……私が案内するよ!」
接客担当の小鳥遊さんがそんなことを言う。多分僕らが休んでいた間にクラス全体は一度共有を終えているんだろう。
「そうだね、おねが」
「小鳥遊さんは集合しなくてはいけないので教室にいたほうがいいと思いますが」
お願い、と言おうとしたところで白撫さんがそうぶった切った。
「……私も調理するぅっ!」
「足りてます」
「足りない!」
「いえほんとに大丈夫です」
「私がやりたいの!」
「じゃあ私と良夜君は接客に回りましょうか」
「それは違うじゃん!」
そんな不毛な争いは、数分後に接客担当が揃うまで続いたのだった。
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