百六十二話 人間は壊れない
お嬢様と良夜の分の夕飯を買い、寮に戻る。七時半に戻ると言ったので一秒のずれもなくインターフォンを押す、それが私の最優先事項となる。そのため二分ほど前から玄関前で待っておく必要があるのだ。
「到着、と……」
万が一のことがあるので七時半より前に帰るわけにはいかない。まあ万に一も億に一も、兆に一すらもあの二人にはないだろうが。
そう期待をゼロに寄せつつ、校門をくぐる。
今頃二人は何をしているだろうか。普通に駄弁っているか、良夜の持つゲームでもやっているだろうか。それとも本当に兆に一を引き当てただろうか……ないな。ただまあいちゃついてるのは確かだし、順当にいけばご主人の依頼も十二分に達成可能だろう。
『あなたも青春男女の一員でしょうに!』
お嬢様の言葉を思い出す。
私が言った言葉の意図はお嬢様に伝わってるだろうし、返されたその真意も私に伝わっている。
つまり翔太と私の仲はばれていて、その上で私たちは青春男女の…………そっそそ、そんな風に見えているんだろうか!
翔太と、男女のな……
「あれ、未亜じゃん」
「かぁぁぁっ!」
「えっなになんかの武術!?」
あばばばばばばっばばばばばばっばばばばばばばばばばば
「あばっばばばばばばばばば」
「壊れた壊れた未亜が壊れた目を覚ませえ!」
しょっしょしょしょうたがとつぜんあららららら
「一旦落ち着けまず息を吸え!」
「あばば」
「はいすうぅ~!」
「すぅ~」
あ~しょうたのにににに
「はけ!」
「かぁぁぁぁぁぁ」
「暴れるな武術やめろ!」
きゅっ
「あ、やべ」
…………
「抱きしめたら止まっちまった」
…………
「……良夜の部屋で休ませてもらうか」
………………………
『ピンポーン』
……………………
「ありゃ、良夜いねえのか? あ、二人一緒か」
『ピンポーン』
……………………
『は、はいっ!』
「あ、オレオレ」
『そんな詐欺みたいな……あ、今鍵開けますので』
……………………
「どうぞ」
「おう、お邪魔しまーす」
「…………み、未亜?」
……………………
「いやな、故障しちまったみたいだ」
「と、とりあえずソレ、こちらにいただけますか?」
「ソレて……まあいいや、ほい」
「ありがとうございます…………未亜、ちょっと太りましたね……」
………………
「んん、重い……」
………………
「あ~、二人とも体調どうだ?」
「まだ、熱はありますよ……重すぎ……」
「白撫さん? ってどうしたのソレ」
「故障したらしいです」
「良夜もソレって呼ぶのかよ……」
…………
「ほいっ」
「ひゃっ」
「あ、起きた」
「わあ」
え、なになになんで私もうお嬢様の部屋に!? っていうかなんで病人に引きずられてんの!? あ~待って翔太こんなとこ見ないで!
「未亜が壊れたら目の前で手をたたけばいいんですね」
「ちょいちょいちょいちょいもう自分で歩けますってかかと無くなるゥ!」
「あ、ごめんなさい」
「いだっ」
突然落とすなあ!
「で、大丈夫か未亜」
「いてて……そう見える?」
「……八割は」
「二割あるなら心配してほしいかも」
「じゃあ大丈夫か」
日本語通じてない。
「んじゃ、俺はこれで」
「あ、じゃあコレ持って帰っていただいても?」
「私のことコレ言うなあ!」
今日のお嬢様私の扱い雑!
私は立ち上がり、リビングへ向かう。
「はいこれお夕飯です!」
「あ、ありがとうございます」
一瞬、なにかがよぎる……いや気のせいか。
「じゃ、私も失礼しますね!」
「はい、気を付けて」
「お邪魔しました」
私はお辞儀をして、翔太とともに部屋から出る。
「あ、そうだ、未亜」
扉を閉めようとしたところで、再びお嬢様に声をかけられた。
「ちょっと重かったですよ……」
なっ!
「う、うるさあい!」
何を急に翔太の前で!
「別にそんな変わって無くないか?」
私をまじまじと見て翔太が言った。
「そ、そうだよね!」
昔から思ってはいたが、お嬢様は体調不良になるといつもよりアホになる。それは今でも変わっていないようだ。
「未亜~?」
「はーい何にも考えてませ~ん」
なぜわかった……
「さ、行こうぜ未亜」
そう、翔太が私の手を引いて歩き出した。
「あ、うん……」
パタリとドアが閉まる音を背中で聞きながら帰路に着く。
「にしても突然カオスだったなぁ」
「それはまことに申し訳ない……」
ほんと、いきなり翔太が現れて頭の中がぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃ、に…………
「あ」
よぎった、アレ。何か引っかかると思った、その正体。それが、鮮明に現れる。
「お弁当……ぐっちゃぐちゃかも」
「ははは、おもしろ」
「ま、いっか」
「いいのかよ」
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