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百五十三話 デジャヴ

「あ、りょーくん!」


 とてとて、と小鳥遊さんが小走りで近づいてくる。


「走ると危ないよ」

「大丈夫、いざとなったらりょーくんに受け止めて……わっ!」


 言った先から、小鳥遊さんが足を滑らせる。


「うおっ……大丈夫?」

「う、うん……」


 なんとか抱き留めたものの、いろいろ人目を憚るよね。


「ご、ごめんね!」


 ぱっ、と小鳥遊さんが僕から離れる。抱き留めた瞬間になぜか白撫さんが頭に浮かんで罪悪感に苛まれたので、よくわからないけど助かった。


「あ、そういえば白撫さんは?」

「あぁ、なんか春原君が話したいことがあるからって。小鳥遊さんはどうしたの?」

「?」

「いや、春原君から小鳥遊さんが僕のことを探してるって聞いたから」

「えっ? あ、うん、そうなの! せっかくだから一緒に回りたいなって思って!」


 そう言った彼女は白い手で僕の手を掴んだ。


「じゃ、いこっか」

「うん!」


 ちなみに小鳥遊さんはまだパーカーを羽織っており、着ている水着は露になってはいない。が、少し開いた胸元から谷間が覗いている。ちなみにちなみに、僕はその谷間を意識の外から覗いている。自分で言っていてなんで意味なのかは全くわからない。


「ん! りょーくん、わたしあれやりたい!」


 小鳥遊さんが勢いよく指さしたのはジェットコースター。今稼働しているところを見ると、かなりの量の水が襲いかかってくるというプールならではのアトラクションになっている。多分目に入る。


「いいよ、いこうか」

「やった! 早く早く!」


今度は僕の腕に絡みつくようにして密着してくる小鳥遊さん。やっぱり君ら夏だったりプールってこともあって開放的だね! いや、小鳥遊さんは元々こんな感じだけどさ、挟まる布の数が少ないから、こう、感触がダイレクトにくるんですよ。


 そうして、待つこと30分ほど。ここはアトラクションが多いこともあって人が分散するため、待ち時間は少なくて済む。


「あ、これお願いしまーす!」


 小鳥遊さんが、羽織っていたパーカーをスタッフさんに渡して保管をお願いした。さらっと脱いだけど、その下が凄かった。


「…………の、乗ろうか!」

「あ、りょーくん! もっとみてよー!」


 青色のオフショルダービキニである。そんなものをずっとみていたら人前に立てなくなるので、さっさと目を逸らして車両に乗り込む……が。


「こわっ」


 席に座ってみたけど、かなり高い。これに乗るの? やっぱり人類って無駄な発展してるよこれ。


「ワクワクするね!」

「ソ、ソダネー」

「あ、後でもっとちゃんとわたしのこと見てね!」


 あかん、手が震えてきた。多分寒いんだ、そう、寒い。いや怖えよ。

 僕の恐怖心に全く配慮はなく、がたがたがたと車両が天に近づく。当然隣の女の子の話を聞いている余裕なんてない。なんでだろうね、この前のよりも怖いんだ。


 そして。


「ふあっ」


 一気に加速。


「あばばばばばばばば」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 隣からは歓喜に満ちた悲鳴。『喜』なのか『悲』なのかはっきりして欲しい。


––––––––バシャァァァァン––––––––


「あぼっ」

「きゃあっ!」


 ありえないくらいの水しぶき。これはもう波そのものでしょ。

 が、まだ終わらなかった。


「えいっ」

「ぶっ」


 まさかまさかの車両内からの攻撃。


「え?」

「水鉄砲! さっき借りれたの! えいっ!」

「んぶっ」


 なにそれ聞いてな「んぶっ」いよ!


 ていうか思考を遮らないで!


「あ、また落ちるみたい!」

「え? ちょっま、心のじゅんびぃぃぃぃぃぃいいいい!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 ……………………そうだ、虚無になろう。




「だ、大丈夫? りょーくん……」

「あぁ、ははは……問題ないよ…………」

「ちょっと、向こうで休も?」

「うん…………」


 やってきたのは、さっきと同じベンチだった。


「おいで!」


 先に座った小鳥遊さんがばっと両手を広げた。


「いや、だいじょう……ぶっ!?」


 引っ張られた。


「はい、ぎゅー…………よし、じゃあ膝枕したげる」


 酸欠とジェットコースターによるデバフで抗えない僕は、本日二度目の膝枕とあいなった。情けない…………

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