第十一話 朝の復習ー①
「はよっす〜」
「……あぁ、おはよ……」
かけられた声に、僕は机に突っ伏した頭を上げずに返した。
「……どうしたお前、調子悪そうじゃないか。なんかあったのか?」
僕はそう言われて一瞬話そうか悩んだが、周りに聞かれるとまずいのでやめておいた。まだ死にたくないしね。こんな、七時半とかいう早い時間にほかに誰がいるんだって感じだけど。
「いや、補習が辛すぎた」
嘘は言ってない。補習自体がってわけでもないんだけどね。
「あ、そうか。昨日から始まったんだったな」
そう!そのせいで朝に三回教科書を読まなくちゃならなかったから、あんまり寝られなかったんだよ!……あ、そうだ。
「翔太、ちょっと手伝って」
「おう、なんだ?まぁ、内容によってはなんか奢ってもらうけどな」
「そっちの請求は、白撫さん宛てでよろしくね」
僕がそう言うと、翔太は首を傾げた。
「? なんで白撫さんなんだ?」
「昨日、白撫さんに勉強法を指定されたんだけど」
「おう」
「朝、学校に着いたら翔太か白撫さんに問題出してもらえって」
「なるほどな」
そう言うと、翔太は、すっと手を出してきた。
「しゃーねーから手伝ってやるよ」
「マジか、ありがと」
僕は机の中から教科書を出して、翔太に渡す。
「んじゃ、始めるか」
◆
「…………しっかりやれているみたいですね」
私は今、教室前の廊下から少しだけ顔を出して中の様子を覗いている。
今は7時半過ぎだが、一ノ瀬君が教室で勉強できているかどうかが気になってしまい、早くに出発してしまった。
……どうやら、忘れずにできていますね。これなら、吾野君にまかせても問題なさそうです。さて、私はどうしましょう。このまま教室に入っても、中には二人しかいないので微妙な雰囲気になってしまいそうですし、邪魔になってしまうでしょうし……
「静かに入れば、気づかれずに済みそうです」
◆
「……正解っ!」
「よっしゃぁぁぁ!」
「ほんっとすげえなお前!」
昨日勉強した範囲から問題を出してもらった結果……全問正解っ!いやぁ〜困っちゃうね!さすが僕だよ!
「やればできるんじゃねぇか!こりゃ、次のテストはいけるな!」
「……そう、だね」
「お?どうした?点数取りたくないとかそんな性癖あったりすんの?」
「いや無いわ」
「じゃ、なんだよ?」
「なんでもない」
うん、なんでもないんだから…………
「……あっ、白撫さん」
ふと左前方へ視線を移すと、そこには白撫さんが座ったまま、こちらを見ていた。え、なんか驚いてない?
「? なんだ……白撫さん、いつのまに」
どうやら、翔太も気づいていなかったようだ。彼女は、暗殺者系統のスキルでも持ってるのかな?
「おはようございます。しっかりと覚えられたようですね、感心しました」
「あ、うううん、おはよう」
ダメだ、まだ昨日の笑顔がフラッシュバックしてくる!僕のメンタルがもたないっ!
「じゃ、じゃあ、僕はトイレ行ってくるから!」
わりと精神的な危機を感じたので、僕は逃げるように教室を後にした。
◆
「おーう、いってらー」
「いってらっしゃい」
そう言うと、吾野君がこっちをまっすぐ見てきた。
「ど、どうしました?」
「白撫さん、良夜になんかした?」
「えっ?」
いきなりそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったので、少しびっくりしてしまった。
「いやさ、あいつがテンパることってほんとに少なかったからさ。なんかあったのかなーって」
「なるほど。なにか、したこと……」
うーん……昨日、補修したくらいだし……
私は、昨日したことを軽く話した。
「で、最後に頭を少し撫でてその日は帰りましたね」
「おう!それだっ!」
私がそう言うなり、吾野君はすびしっ、と私の方を指差してきた。
「いいか、白撫さん。相手は男子だ。オタクだ、インドア派だ。女子と話すのにあんまり慣れてないからあんまりそういうことすると、あいつもたないから」
「そ、そうだったんですか、ごめんなさい。以後気をつけます」
「おう。ま、悪いことってわけでもないんだけどな」
なんなんでしょう。男心とは、気難しいものです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
気難しいのは乙女心だけじゃないんですよ!
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