百六話 でーと!⑥
あーだこーだと言って、2人は何処かへ行ってしまった。みんなで遊べばいいのになぁ。
「むぅ…………」
傍らで、白撫さんがうなる。
「力の方向をF1として、まず真上にクレーンが動くから垂直抗力Nが……いや、でもそれだと……なら、ここに爪を入れれば……あぁっ!?」
なんか、難しいことを呟いては嘆いてを繰り返してる。まあ、その難しいことがわかるようになったあたり、僕の頭も良くなったんだろうなぁ。いやはや、ありがたい限りだ。別に物理の公式とか計算なんて将来専門職でもないと使わないんだろうけどさ。
あ、そこはもう少し……あーあ。
「うう……も、もう一回……」
そろそろ止めたほうがいいかな?もうすぐ野口さんが三人いなくなりそうだけど。まあいいか、お金持ちみたいだし。
「あっ!…………あぁ……ぁ……うう」
よし、訳してみよう。
『掴めた!いけ!いけ!……あ、落ちそう……落ちたぁ……うう、なんで……』
こんな感じか。
「さいごのひゃくえんっ……」
幼児退行が進む白撫さん。え?ロリ白撫さん?略してろりなでさん?それはそれで…………誤解だ。
「おねがぃ……あ、あぅ…………」
"さいごのひゃくえん"は、あえなく散った。
「ぐすん……」
「じゃあ、僕が」
「……いえ」
悔しそうに、白撫さんが首を横に振る。
「私には、資格がなかったのです…‥あの子を愛でる、資格が…………」
んな大袈裟な。
「行きましょう」
「あ、そ、そう?」
そんな勇ましい表情を見せられてもな…………カッコ良くもなんともないよ?
「では、かえって写真を撮りましょうか」
「わかった」
そう言って、僕らは出口に向かう。
でも今、チラッと見たのを見逃さなかったよ?
出入り口で、僕は口を開く。
「ごめん、ちょ、お腹いたい……」
「え、あ、大丈夫ですか!?救急車ですか!?」
「いや、普通にトイレ行ってきていいかな……?」
「あ、はい、わかりました!ではここで」
「ごめん、長くなりそうな予感がするから先に帰っててもらっていい?じゃ、トイレ行ってくる!」
「え?ちょ、一ノ瀬君!?」
返事を聞かずに、走っていく。こうすれば、ひとまず帰ってくれるだろう。
トイレへ行くフリをして、僕は再度ゲームセンターへと向かう。
「あったあった」
目当てのものを見つけ、百円投入。
「こんなもんかな……?よし、これならあと3回でいけるかな」
あと二回で最大効率で落下口の付近まで寄せ、3回目で持ち上げ、アームの揺れで落とす。三回目で失敗したら、またやり直しだ。
「よし……よし……お、取れた」
白撫さんには申し訳ないけど、楽勝だった。
ぬいぐるみを袋に入れ、急いで帰った。
「ふぅ……」
この炎天下、走るのって辛い……
門が見えてきて、倒れずに良かったと安堵する。汗がだらだら頬を伝ってきて、鬱陶しい。時折目に入りそうになる。
「さて、と……あ」
「一ノ瀬君、おかえりなさい」
どうやら、白撫さんは玄関前で待ってくれていたようだった。
「はいこれ、あげる」
袋からクマのぬいぐるみを取り出し、白撫さんに手渡そうとして––––
「え、こ、これ………あ、ありがとうございます!」
「うん、いいよ……あっ」
やっちゃった!汗が垂れたっ!
「あ、ご、ごめん!もう一個とってくるね!」
また走るのか!まあいいや行こう!
「あ、あの……」
自分の部屋にぬいぐるみを放り込もうとしたところを、白撫さんに止められた。
「ええと、その……それが、いいです……」
「え、で、でも」
「く、ください!」
そう言って僕からぬいぐるみをひったくった白撫さんは、勢いよく自身の部屋の中へ入っていってしまった。
その数十分後、機嫌の良さの権化が服を着て歩いているような状態の彼女から連絡が来て、校門前で写真を撮ったのだった。2人とぬいぐるみで。
ちなみに、あんなことを言われてしまって、少しドキッとしたのは秘密だ。
スランプ抜けたかもしれません(速い)(早い)(疾い)




