今はまだ
食材を買い終え、自宅で夕食を作る。今夜のメニューはサバの味噌煮である。
まず、サバの表面に軽く切れ目を入れ、鍋に味噌やら醤油やらの調味料を入れ、先程のサバも入れる。ついでにぶつ切りしたネギも入れる。あとは蓋をしてコトコト煮込むだけ...。
「はー。結構器用に作るね〜」
と、横から加賀がひょこっと顔を出してきた。
「まあ、料理は自分で作る時が多いからな。慣れたもんだよ」
「へ〜。今度教えてよ。作り方」
「別に大したことは無いぞ。ネットで作り方を見てやってるだけだから」
「ふーん。あ、いい匂い」
と、少し話しているうちに煮詰まったようだ。
蓋を開けると、味噌のいい香りがしてくる。そんでもって近くにいる加賀からもいい匂いが...。
って俺は何を思ってるんだ!変態みたいじゃないか!
その考えが悟られないようにしながら、皿に盛り付けテーブルに運んだ。
加賀と向かい合わせになって座り、
「「いただきます」」
そう言って食べ始めた。
「え!?美味しっ!?」
味噌煮を食べた加賀が驚きの声を上げた
味の美味さに褒めてきた加賀に対し、俺は結構なドヤ顔で自慢する。
「ふふふ。美味かろう美味かろう」
「うん!ほんとに美味しい!まるで」
と、一泊置いて、
「お姉ちゃんの味みたい」
そう言ってきた。
言われるとは思っていたが、いざ聞くとなるとやはりチクッとする。
「ねえ」
と、加賀が口を開く。
「ほんとに覚えてないの?私の事も、お姉ちゃんの事も?」
「...しつこいぞ。知らないって言ってるだろ」
「でも...」
「飯食い終わったら家帰れ」
つい、突き放した言い方になってしまった。でもあまり気にしない事にした。
しつこい加賀が悪いのだ。自分の領域に入ろうとしてきたらトゲのある言い方をしてしまったのだ。などと、都合のいいように自分に言い聞かせる。
と、ふと気になって加賀の方を見ると、
「っ!?」
泣いていた。号泣とまではいかないが、目の端から少しずつ涙が流れていた。
「覚えてないの?ねえ、本当に覚えてないの?」
縋るような声だった。そんな顔をされたら、俺が責められているように見え、罪悪感が沸いた。
「...少し待っててくれ。覚えてる覚えてないよりまず、自分の心に決着をつけたい」
何を言ってるんだ俺は。これじゃまるで真実を言うまで待っててくれ、と言ってるようなものじゃないか。
気を利かせて何か言おうとしたら空回りしてしまった。
すると、
「分かった。真君が心に決着をつけるまで待つよ」
そう言って、まだ涙があったが、笑顔を作った。
それを見て俺は素直に、かわいい、と思ってしまった。
食事を済ませたら、流石に帰るだろうと思っていたが、加賀は本当に泊まっていくつもりだったらしく、親に断ってきたのかとか、着替えとかどうするんだとか聞いたら、親には友達の家に泊まっていくように言ってあるとか、着替えは持ってきたなど、質問を丁寧に返してくれた。
そんでまあ、加賀が風呂に入っている間、俺は一人悶々として考えていた。内容は、今後の加賀との関わりだ。ああ言ってしまった以上、いつかは言わないといけなくなる。
...ん?言うって何を?告白?避けた理由?あいつの姉の事?あれぇー?
自分で言っておいて分からなくなる。というかあの時かなりとんちんかんな事を言ってしまった。
まあでも、あいつが今知りたいのは、
「避けた理由だろうなあ」
結局行き着く答えは、これ以外に今のところ無い。
と、バン!とドアの開く音が聞こえ...、
「ヤダヤダー!!蜘蛛ヤダー!!!」
「お前せめてタオル巻いてから出てこいよー!!」
脱衣場にいたらしい蜘蛛に驚いて出てきた加賀に、目を逸らしながらツッコミを入れた。アニメのような展開でおいしい瞬間だが、童貞な俺にとっては直視は無理だ。
いやじろじろ見るのも駄目なのだが。
そして一瞬。ほんの一瞬だけちらりと加賀の身体を見てしまったのは内緒である。