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説話93 行商人はポーションを鑑定する

「そうですか、それは痛ましい話ですなあ……」


「う、ううう……

 なんて可哀そうな子たちなの……ううう」


「ベアトリスは泣かないの」


 ボクから子供たちのことを聞かされたエリックとベアトリスは、沈痛な面持ちで子供たちの境遇に嘆いてる。ユナは小さな手で泣いてるベアトリスの頭を撫でながら慰めてる。


 この頃のボクはなんとなくだけど、そういう気持ちが分かってきた気がする。



 人間ってさあ、他人の不幸に自分のことのように悲しんだりするのよね。


 思えばアールバッツたちと出会った頃、イザベラも今のベアトリスみたいに号泣してたね。


 あの時はわかってあげられなくてごめんね? でもねだってる食べ物はあげないよ? 近頃のペットは太り過ぎ、健康管理がなっていないね。


 一段落がついたら、必ず森のダンジョンへ連れて行くからね、イザベラ。



「いやあ、私ら夫妻も子がいませんからね。

 そういう話を聞くとどうにも心を痛めるのですよ」


「そうですか」


 エリックは応接間にある机においてあるコップを取ると、気持ちを落ち着かせるためにお茶を飲んでいる。ベアトリスのほうはユナとともに、お手洗いのほうで顔を洗いに行ったんだ。



「それにしても良い品ばかりお持ちですなあ。

 資金にゆとりがあれば、このようなコップを是非スルト様からお買い上げして取り扱いたいものですよ。はははは」


 磁器製のコップを惚れ惚れした目で見ているエリック。


 ちょうどいいよね。ここでボクはポーションのことを切り出そうと考えたのさ。



「エリックさんに見てもらってから、あなたたちに買ってほしいものがあるんだ」


「ほほう。スルト様が出される品は貴重品かと思いますけど、私が取り扱えるものなら宜しいのですが」


 ボクは立ち上がり、執務机の上においてあるポーションを取ってから、それをエリックの前に置いたんだ。



「ほう……これは中々……

 このようなものは市場でも高値で取引されますよ」


「そうなの?」


 エリックはビンを穿ってしまうじゃないかなと思うほどの視線で、手に取るポーションをこれでもかと凝視してる。



「はい、このようなガラス製のビンは作り方が大変です。

 しかもこのビンは不純物がほとんど見当たらず、中の液体が透き通って見えてしまうくらい透明度が高いのです。

 このような素晴らしいビンなら、私が買い取っても自信を持って売ることができます」


「違うからね」


 ――違うんだエリック。


 ボクはビンを売ってほしいじゃなくて、その中にあるポーションを買ってほしいんだ。ビンを買ってどうするのさ、ボクはガラス細工の職人じゃないんだよ。


 そりゃあ創造魔法で大量生産はできるけどね。



「えっ? この上質なガラス瓶を買ってほしいじゃないのでしたら、スルト様は私になにをお売りするつもりですか?」


「ビンの中身にあるポーションだよ」


 目が点になっているエリックにボクは商品の名を告げてあげた。




「――あら、あなた。

 きれいなガラスのビンを持っているわね。どしたのそれ?」


 ベアトリスがすっきりした顔でユナと一緒に応接間に入ってきたね。そうか、やっぱりガラスビンのほうへ目が行っちゃうんだね。



「ちょ、ちょうどいい。スルト様がポーションを売りたいからお前が見てくれ。

 薬草学はお前のほうが詳しいんだ、ちょっと見てやってくれ」


「そうなの? わかったわ」


 ベアトリスはソファーに座り、ユナはエリックの肩まで飛んでいき、ちょこんと腰を下ろした。



「スルト様、これは開けさせて頂いてもいいのでしょうか?

 ポーションは品質が大事なんです。

 この入れ物だけでも値段は付くと思いますが、やっぱりポーションは効き目が一番ですから」


 エリックからポーションを受け取ってから、ベアトリスはボクに丁寧な口調で質問してきた。



「いいよ、それは見本だから開けていいからね。はいどうぞ」


 ボクは空のガラスコップをベアトリスの前に置いてあげたんだ。



「スルト様は本当に上質なものをお持ちですね。

 ――では、失礼して」


 コルク栓を開けたベアトリスはポーションをガラスコップへ適量に注いでから、その色合いを確かめるように目を凝らす。



「透き通って夾雑物がまったく入っていないポーションなんて初めて見たわ。

 しかもこの薬草の香り……これはすごい……」


 ベアトリスは一心不乱でガラスコップに入ってるボクが作ったポーションを見ているんだ。


 驚きの声をあげた彼女に、ボクは心の中で魔法を込める時に取り除いてるんだと答えてあげたよ。


 まあ、ベアトリスには聞こえないけどね。



「では、一口を――」


 ベアトリスがガラスコップを手で取るとそれを口元に持って行き、口に含むようにポーションを飲んだ。


 ポーション系の回復薬はね、飲んで良し塗って良しかけて良しじゃないとダメなんだよね。


 ボクが作るポーションはどれも最高品質に達してることに間違いなしだ。



「こ、これは……」


 ベアトリスの見開いた目に、ユナがびっくりしてエリックの後ろに隠れてしまった。どうしたのでしょうね。



お疲れさまでした。

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