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説話90 行商人は知らない場所に訪れる

「おい、このところに人なんか住んでいたっけ」


「あら本当ね、前通ったときは草原だったのにね」


「ユナ知ってるよ? そこにすごい魔力があるよ」


 行商人のエリックは妻のベアトリスと顔を見交わして、遠くから見えてくる建物に困惑した視線を送った。


 ベアトリスの肩に乗るピクシーのユナは二人に警告するが、二人が幼い頃に森で出会ったこの妖精は、時々意味のないことをしゃべるので、特に注意を払っていなかった。



 暗黒の森林は行商人たちがよく使う道。


 伝説では危険と言われているけど、十年前までは森に入らなければ危険がないことを彼らは知っていた。十年前にワイバーンという恐ろしいドラゴンがたまに人を襲うようになったけど、それでも盗賊や盗賊みたいな騎士団が潜む普通の道よりは安全であると行商人たちはこの道を使用してる。



「どうする? ちょっと寄ってみようと思うけど」


「そうね。あなたが決めたらいいわ」


「ユナはね、凄い魔力の人がいると思うよ」


 ピクシーのユナがしつこく言うから夫婦は少しだけ心配となった。


 だけど水も少なくなってきたから、もしここで補給ができたら助かると夫婦は確認し合った。


 あわよくばなにかの商売になるならいいなと、エリックは見たことのない建物へ立ち寄ることにした。




 エリックたちの馬車がそこへ近付いていく。


 ピクシーのユナはなぜかいつもと違って、怯える様子でベアトリスの長い髪の中にもぐり込んで隠れてしまった。



「あなた……」


「見るだけ。やばかったらすぐ逃げよう」


 ユナの怯えようを不安そうに見るベアトリスへ、エリックはまるで自分に言い聞かすように声をかけた。



 建物の間にある広場のような場所に子供がたくさんいて、全員がエリックとベアトリスの乗る馬車を見つめているようだ。


 子供がいることでホッとしたように、エリックは馬車の速度を少しだけ速める。


 馬車が近付くと、子供たちは急に蜘蛛の子を散らすように建物の中へ逃げ込んだ。その光景にエリックはなぜだろうかとあっけを取られた。



「なんだ?」


「ねえ、あなた。人が来るわよ」


 ベアトリスはカシュクールワンピースを着た女性が、馬車のほうに向かって歩いてきたことをエリックに注意したので、エリックはすぐに馬車を止めた。



「どちらさんかなあ? なんか用でもあるのお?」


 黒のワンピースを着た女性はとても美麗な顔立ちをしているが、どこか気怠そうな雰囲気をまとっている。


 その美しい女性がエリックたちに質問してきた。



「こんにちは。私は行商人のエリックと申します。

 こちらのほうで集落のような家が見えましたので、なにかお売りできれば幸いかと思いまして、厚かましいですがこちらへ寄らせてもらいました。

 それと水を分けてもらえると助かります」


 エリックは商人らしく、出来るだけ愛想よく女性に来訪する意味を伝えた。それを聞いた女性はなにか思い当たったように、頭をポリポリとかいてからエリックに返事する。



「行商人ねえ。そう言えばスルトさまがなんか言ってたね……

 ちょっとそこで待っててもらえるぅ? あんたたち行商人に会いたい人がいるのよお、ちょっと呼んでくるわねえ」


 女性はそう言ってからくるっと身を翻して、子供たちが逃げ込んだ建物と反対にある建物へ歩いて行く。




「あなた、ユナのすごく怖がっているの。ここって、大丈夫なのかな……」


「ここまで来たら、私らに会いたいという人に会ってみるしかないよ。

 大丈夫、やばかったらユナに火炎魔法を撃ってもらってから逃げよう」


 エリックはそう言って妻をなだめた。ピクシーのユナはベアトリスの髪の中に隠れたまま、今でも出てこようとしない。



 その時、女性が入った建物のほうでいきなり窓から燃え盛る火柱が飛び出した。



お疲れさまでした。

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