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説話9 召喚勇者は悲しい定めにある

 魔法陣が床一杯描かれた一室に、これでもかと貴族たちがひしめいて、彼と彼女らは台座に置かれている四つのオーブを注視する。光輝くオーブは一つ、また一つとその光を失わせ、気が付けば四つとも光を放たない、ただの石の球体に変わった。



「ダメだったか……今回も……」


「これで勇者たちは全員が敗れ去ったってことか」


 ここにいる貴族たちがみんな黙り込んでしまった。それは死んだ勇者を悼んだものなのか。それとも魔王が未だに健在することを憂いでのことなのか。




「あー、クソが! 10日も持たないなんて役立たず者どもがあ! おかげでもっと儲けられたはずが大損したじゃないか!」


「よっしゃっ! ピッタリ9日だ。予想が大当たりだぜ!」


「畜生が……だからもっと鍛えてやっていれば10日以上は持ったのによ。おれは反対したんだぞ? 今は行かせるべきじゃないって」


「軟弱勇者の馬鹿どもめ、せっかく伯爵になれると思ったのによ」


 室内はいきなり喧噪となり、人々が罵ったり、喜びを爆発したりと大騒ぎになった。その中を年老いた厳かなローブを羽織った爺さんが魔法陣の中央に立つ。



「静粛に! 陛下の御前だぞ」



 衛兵の叫びにここにいる全員が揃って口を噤んだ。その視線は国王と呼ばれる爺さんのへ向けられてる。



「皆の者、よく聞けい。召喚されし勇者は魔王の前でいつものように敗れ去った。それも滅びの城を出てからたったの9日とはまったく嘆かわしいことじゃ」



 この場にいる貴族たちがみんなしーんとする中、国王は語り続ける。



「これを機にこれから召喚する勇者の訓練期間を今回の半年ではなく、二年に延ばすものとする。それによって賭けの公平さを期したい」



 人だかりからどよめきが起こった。今まで最長でも一年だったものがいきなり倍になったから、場合によっては本当に勇者が魔王を倒すかもしれない。



「危惧するでないぞ、皆の者。勇者は絶対に魔王を倒せない、倒す術がないのだ。ただわしとしては今回のようにあんまりにも早く死んでしまうとは情けない」


 一同は同意するかのように頷いた。




「さて、次期召喚勇者のこともここまでとして、賭けの結果を皆の者に伝えようと思う」


 固唾を飲む人、手を握りしめる人、わなわなと身体を震わせる人と表現はそれぞれの思いに応じて、貴族たちは国王の言葉を待っていた。



「今回、見事に9日と予測した者は約束通りその爵位を上げる。ほかは各々の日数に応じて金貨を贈呈しよう」


「よっしゃっ! これで伯爵だ!」

「明日からおれのことを子爵と呼んでくれよ」

「わたしも子爵ですな、わっはっはっは」



 三人の人が大喜びの中、一人の初老の男が震える身体を止めようともしないで、地面のほうに目線を向け続けている。




「さあ、皆の者が一番期待しておる今回の罰ということだな……メリカルス伯爵。お主は25日と予想しておったな? 今回の一番の外れだ」


「あの馬鹿どもめが、せっかく目をかけてやったのに……あの勇者どもめが……殺してやる、殺してやる、殺してやる――」



 メリカルス伯爵と呼ばれた初老の男が国王の言葉に返事することもなく、ひたすらいなくなった勇者たちのことを呪い続けてる。それを周りの人たちがニヤニヤした顔と冷めた目でただ見ているだけ。



「聞いておるか、メリカルス伯爵! ……まあいい。此度の勇者が滅びの城を出てから倒されるまでに9日を要した。規則通りにその9日という時をそなたにやろう。そなたもこれまで王国に貢献してきたのだ、わしはそなたの幸運を祈っておるぞ? 生き延びられよ、メリカルス伯爵。いや、罪人メリカルス。これ持ってそなたの財産は差し押さえ、一族ともども王国から追放だ! 追手は10日目早朝にて差し向ける」


「ひっひーーーっ!」



 衆人が召喚の間から一人残らず立ち去ってもメリカルスと呼ばれる初老の男は床で震え続けていた。



 王国にとって勇者の召喚とは魔王との戦いで、何日まで生き延びられるかという賭け事を目的としたもの。それは貴族たちが退屈しのぎのためにあり、悲哀に満ちる残虐で救いのない一方的な異世界転移であった。



お疲れさまでした。

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