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説話75 元魔将軍は計画する

 魔王の討伐は元々この世界の人間が男神からお告げを受け、聖剣を授かり、人間の国が勇者を育てながら行っていたんだ。


 幾度もなく魔王領に送り込まれてきた人間の勇者たちは魔王様に辿りつくこともなく、魔王軍の前に連戦連敗を喫したのよね。


 そう、ボクたち魔将三人衆によってね。



 ボクたちが前面に出たには訳がある。


 魔王様が直々お出ましになると、天変地異を起こしそうで世界が破綻するおそれがあったんだ。



 そのうちに自信をなくした人間の国々は勇者を育つことを諦めた。


 そのことに焦った男神はなんと、異世界から勇者を召喚しようとして、呼ばれしのオーブを神の力で作り上げたのさ。


 異常な魔力の流れに気が付いたボクは魔王様に断りを入れることなく、魔王領側の魔族は魔王領から出ないという不文律を破って、このまま男神の暗殺を決行すると思ったくらいに怒りを感じたよ。



 でもねえ。男神を滅することは不可なんだよね。


 どうであれ、男神と今はお隠れになった女神、それに地獄にいる自由気ままな暗黒神が世界を創り上げたことは、今となってはほとんど知られていない神話(しんじつ)であるからね。


 だから、男神を弑逆することは世界の破滅に繋がりかねない可能性を秘めてるんだ。


 癪だけど。



 男神と対峙したボクはその時にやつから送還のナイフを手渡されたんだ。


 これで召喚された勇者が魔王に勝った時にを帰還させることができると告げられた。男神が曰く、人間と魔族の底力が違う。


 だから多少人間側に反則的な手段を持たせても罰はあたらんと、やつはさも当たり前のようにぬけぬけと抜かしたんだ。



 送還のナイフを持ったボクは思った。


 召喚された勇者を直後で刺してすぐに帰すことはできるけど、それでは目の前にいる男神をさらに追い詰めることになる。そうするとこいつは本当にとんでもない手段に出るかもしれない。


 例えば、まとまった数の異世界の人間を一気にこっちの世界へ召喚するとかね。



 こいつならやりかねない、だからボクは男神の側に付くフリの決意をしたんだ。



 すでに呼ばれしのオーブが完成した以上、召喚されるであろうの異世界の人間には悪いけど、ボクはそれ以上の被害者を出したくはない。


 でもこいつをこれ以上好き放題させたくないボクは、その場で男神側につく代わりにある条件を提示したんだ。


 ――お前も隠れろ! とね。



 召喚勇者の誕生で男神と結託したボクは魔王領に帰り、男神側についた以外の事情を全て説明したボクに魔王様から散々と怒られた。


 パーピーの羽毛で作った魔王様の枕とお布団で投げつけられた。まあ、それはあとでボクが侍女さんに洗濯させて、日干ししてからちゃんとお返したら、フカフカのお布団と枕に魔王様もご満悦だったけどね。


 魔王様はご自分でボクに蹴りを入れようとしたけど、それはすぐに思いとどまった。わざわざ森からピクシーを呼んできてボクに蹴りを入れさせたんだ。


 ――あ、ピクシーというのはボクの拳くらいの妖精さんで、蹴られても痒いだけなんだけどさ。


 そのくらい、魔王様のお怒りは激しかった。あの時はボクも怖かったよ。



 なんせ、魔王様が直接部下に手をあげたのは魔王軍結成以来初めてのこと。


 そのあとに魔王様はボクに手をあげたことで落ち込んでしまい、三日も三食のご飯を召し上がらずにボクを心配させた。もちろん、午後のお茶とお菓子と三食後に出されるデザートにお夜食だけは、いつも通り完食したのだけどさあ。


 ご飯はしっかり食べないとね。




 人間の勇者が敗退する度に人間の国へ返してきた聖剣と賢者の杖は、初代の召喚勇者たちを撃破したのち、それらをを奪いあげたのはボク。


 それ以来人間側は聖剣が失われたことを隠し、偽物を作っては召喚勇者たちに渡してきたのよね。


 本当の聖剣がないため、歴代の召喚勇者たちは魔王様を討伐することなんて、初めからできないんだ。


 でも、魔王を討伐できる唯一の武器である聖剣がボクの手にあるからこそ、魔王様もほかの魔将三人衆も安心してボクに勇者殺しを任せたんだよ。



 さて、ボクが魔王軍を去ったということは、次の召喚勇者に立ちはだかるのは魔王様か、ボク以外の魔将ということになる。いずれにせよ、送還のナイフがボクの手にあるということは、召喚勇者は送還させずにこの世界で死ぬことになるんだよね。



 ボクはこんなクソのような茶番を終わらせたい。


 延々と続く悲劇はどう考えても観客が減り続けるだけ。


 しかもボクが恐れてることは魔王軍が人間の国々へ出撃することなんだ。新しい幹部たちはなんの事情も知らないからね。魔王軍幹部たちの中でだんだんと多くなってきたのは、勇者を出させないために人間の国々を滅ぼそうという意見なんだ。


 その声にボクはずっと気になってた。


 アスカの顔を見たときにちょっと思ったんだ。


 ――もう、幕切れを迎えてもいいかなと。



 ボクはもう魔王軍の幹部じゃない。


 もちろん人間の国々(クズども)とは組むつもりなんかないね。それなら原点に帰ろう。魔王様はこの世界に生きる者が倒す。召喚勇者は男神が生み出した邪道そのものなら、邪道を使わずにこの世界に生きる者が正道を示すべきと思う。



 今ならボクは決意できる。


 歴代の勇者たちの叡智を聞き続けてきたボクが、魔王様を倒せるような勇者を育てよう。神が隠れてしまった歪なこの世界を導いてくれる勇者たちを。


 それがこれから始まる勇者養育計画さ。



お疲れさまでした。

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