説話71 元魔将軍は食事で歓待する
わあ、子犬に子猫、人間の子にエルフの子が一杯だ。
アールバッツたちを入れると全部で108人だね。
どの子もお腹を空かせてボクが出す料理にかぶりついてるよ? 長い間にご飯を食べてなかったのかな。まだまだあるからいっぱい食べていいよ。
森の中から飛び出してきた小さな女の子は人間のエリアス。
ミールより一つ下の4才で今は積み木を大事そうに持って、イザベラがご飯を食べさせてる。
なんだかペットがとても優しそうな笑みでみんなを見ているけど、どうもこの頃は様子が変だよね。アールバッツたちの風呂や食事もイザベラがちゃんと面倒を見ているんだ。
まあ、ボクとしては手間が省けていいんだけどさあ。
「みんなにお食事を頂けまして、ありがとうございます」
礼儀良くお礼してくるのはここにいる子供たちの最年長であるフィーリ、彼女は人間で年が14才だという。
「なんでこんなところに子供だけがいるのかな?」
「わたしたちは奴隷です・奴隷商人に運ばれてるときにここでワイバーンに襲われました。
奴隷商人はわたしたちを馬車に閉じ込めたまま逃げて、馬車を壊して襲ってきたワイバーンはなぜか大人だけを殺したんです。
その間にわたしたち子供はここまで逃げて来ました」
まあ、ワイバーンさんによくある習性だよね。
あいつらは抵抗されることを好むんだ。それにエサとなる子供たちを逃がしたつもりはないはず、ちゃんと監視していつかは食べに来ると思うのよね。
しつこいからね、ワイバーンさんは。
「ふーん。それでここに住んでいるわけだね」
「はい、わたしたちは元々ワルシアス帝国にいました。
税の取り立てがひどく、税を払えなかったわたしの家族は奴隷の身分に落とされたんです。ここにいる子供たちの家族もみんな似たようなもんなんです。
奴隷商人がいうにはカラオス王国へ売りに行くという話でしたから、どこにもわたしたちが住めるところなんてないので、このままここにとどまっていました。
野菜を植えてみたり、森に行けばうさぎを狩ったり、果物を採ったりしてなんとか今まで生き延びてきました」
「ここが暗黒の森林だと知っても?」
「はい。奴隷商人はここが暗黒の森林だと言って、馬車を急がせましたのはそれは知っています。
でも、ここにいたら奴隷にならないで済みますから」
――奴隷ね。
そう言えば戦士のサカモトは異世界にきたから奴隷を買いたかったと言って、パーティから顰蹙を買ったね。
まあ、奴隷なんてのは人間の国々だけにある制度。魔王領にはそんなものはないのよね。
「つみき、おとうさんつくったの。いいでしょう」
「そうですの。それはよかったですわね。で、エリアスの父君がどこにいますの?」
イザベラがエリアスの持つ積み木で親のことを聞いて、エリアスはとても可愛い笑顔でイザベラの問いに返事した。
「おとうさんとおかあさん、こわいまものたおしてくるって。
おわったらエリアスむかえにくるって。だからエアリスいいこでまつの」
エアリスの言葉を受けたイザベラはすかさずフィーリへ視線を向けるが、フィーリは小さく首を左右に振って、それだけでイザベラも事情を理解したんだね。
エリアスの両親はエアリスを逃がすために自らワイバーンのエサになったんだ。
「そうですわね、エアリスはいい子ですものね。よーしよーし」
「うん! エアリスいいこなの、いいこしておとうさんとおかあさんまつの」
イザベラは顔中を涙で飾ってるよ、鼻水も垂らしてるね。ちゃんと拭かないと子供に付いちゃうじゃないか。
それにしてもペットの様子は本当におかしい、近頃はよく泣くのよねえ。
お疲れさまでした。




