説話67 元魔将軍はペットを増やす
子犬や子猫たちはお風呂に入って、イザベラに遊んでもらって、疲れがたまっていたのだろうか、今はイザベラのベッドでイザベラが歌う子守歌を聞きながら、みんなで仲良く寝てるよ。
ウルフ族のアールバッツ兄妹、キャッツ族のミール、エルフ族のアグネーゼに人間のエルネスト。
寝る前に子犬や子猫は自分たちのことを自己紹介してくれたんだ。アールバッツは12才の男の子、妹のマルスは10才、ミールが最年少の5才、アグネーゼは11才の女の子、エルネストは9才の男の子。
それぞれが自分のことを教えてくれた時のイザベラは今まで見たことのない、優しさを込めた眼差しでずっと子犬や子猫たちを褒めていた。
こんなペットの姿は初めてなのよね、だからボクも彼女に言わなくちゃいけないんだ。
「イザベラ、ちょっといいかな」
「はい。ワタクシに用事かしら、スルトちゃん」
イザベラは寝ている子犬や子猫たちが乱したお布団をかけ直すと、名残惜しそうにベッドから離れてボクの所まで来た。彼女にソファーに座るようにすすめるとボクは今後のことを切り出した。
「イザベラ。ボクね、ここから離れようと思うんだ」
「え?」
うん? イザベラの様子がちょっと変だよ? なんだかもどかしいというかな、いつもの調子とちょっと違うのよね。
まあ、いいや。このまま話を進めちゃおう。
「ダンジョン踏破はしたし、迷宮都市に特に見るべきものがないのよね。だから違うところへ行こうと思うんだ
。一応ね、イザベラの意見を聞いておこうと思ってね。イザベラはボクについて来るでしょう?」
「当たり前ですわ。スルトちゃんの面倒をちゃんと見てさし上げないと野垂れ死にでもされますとワタクシ、一生の悔いが残るじゃありませんの。
なにを言われますかしらこの子は」
「はあ、それは……ありがとう」
うーん、ペットの言ってることがおかしいね。
どう考えても面倒を見ているのはボクなんだけどなあ、人間の認識ってボクの知識とかなり違うんだな。
勇者たちとはすんなりと話せたけど、どうにもイザベラとは会話しているようで独り言を言ってるみたいなんだよね。まっいいか。
「話を戻すけどね。この子供たちが起きたらギルドに行って、面倒を見てもらうように話してこようと思うんだ」
「まあ、スルトちゃんはこの身寄りのない子たちを捨てようって言うですのね!」
いやいや、捨てるも何も拾ってないからね? それに声が大きいよ、イザベラ。
ほら、子犬や子猫たちが起きてこっちを見ているじゃないか。
「スルトちゃん? いいこと? ワタクシはあなたをそんな人間に育てたつもりはありませんわ。
そんな冷たいことを言うだなんて、あなたは魔族なのですか?
とにかく、この子たちを捨てることはワタクシが許しませんよ」
いやまあ、イザベラに育ててもらった覚えないし、人間じゃないし、魔族というのは大正解だよ。
イザベラにそこまで決意があるのならしかたない。それではこうしようか。
「じゃあ、イザベラがここに残ってこの子供たちを育てる?」
「んまあ、今度は長年いっしょに過ごしてきた家族も同然のワタクシをお捨てになるつもりですわね!
なんて子なのでしょうか、ワタクシたちに死ねというのですね?
みんな、こっちにいらっしゃい。一緒にこの魔族のようなスルトちゃんの前で一食分だけ断食しましょうね」
イザベラも子犬や子猫たちが起きてることを知っていて、ぞろぞろと歩いてきた子犬や子猫たちを両腕で抱き寄せた。
そんなことを言われてもイザベラとはこの前に会ってペットにしたばかりだし、家族と言われても血は繋がってないのよね。
そもそもボクは魔族だよ? 人間のイザベラがボクと同じ歳月を生きていたら、それこそボク以上の化け物だよ。
「スルトお兄ちゃん……あたしたちをおいて行っちゃうの?」
涙を湛えている潤んだ目でボクを見つめてくるミール。
――うーん、そんなことを言われてもなあ。
「ダメだよミール。スルト兄さんはぼくたちを助けてくれたんだ。困らせてはいけないんだ」
「うえーーーん……」
右腕の袖で涙を拭うアールバッツに叱られたミールは声を張り上げて泣き出してしまった。
それにつられてほかの子犬や子猫も一斉に泣いてるのよね。どうしよう、なんだか自分が極悪人になった気分はなぜなんだろうね。
「いたっ……うう……スルトちゃん? この子らはワタクシが面倒を見ますわ。だから一緒に連れて行きましょう……ううう……」
いや、今思いっきり自分の太腿を抓ったよねイザベラ? そのポロポロ落ちてくる涙は痛さのためなんだよね?
それにね、ペットのペットの面倒は誰が見ることになると思う? ご主人様になるのよねこれが。
「スルトお兄ちゃん……いっしょに行っちゃ、ダメ?」
ミールがボクの足をしがみついてきたよ。
あーあ、ここで拒んだらボクは悪者になりそうだよ。
わかったよ、受け入れるよ。子犬や子猫が増えたところでどうということはないさ。
「一緒に来る?」
「ミール、スルト兄ちゃんと行く」
人懐こい子猫はボクのお腹に抱きついてきて、とても嬉しそうに笑った。
お疲れさまでした。




