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説話66 元魔将軍は身体を拭いてあげる

 宿屋のお兄さんはボクが獣人の子犬や子猫たちを連れてきたことで眉間にしわを作っちゃったけどね、金貨一枚を渡したらすごく喜んでくれちゃって、宿屋さんのお姉さんたちに言って、子犬や子猫たちを運ぶことに手伝ってくれたんだ。


 いい人よね、あのお兄さん。



 いま、ボクは手持ち無沙汰で椅子の上で呆けているんだ。


 イザベラが起きてきた子犬や子猫たちを連れてお風呂に入り、キャッキャウフフの声がここまで聞こえてくる。なんでも妹とか弟とかが欲しかったんだって。そういうのはよくわかんないのよね。


 勇者たちからもボクはよく可愛がられたのは可愛い弟みたいだそうで、そういう感覚ってなんなんだろうね。



「お兄ちゃん。おねえちゃんが身体を拭いてだって」


 真っ先に風呂場から出て来たのはミール。ずぶ濡れでボクにバスタオルを手渡そうと、風呂上がりの雫がポタポタと床を濡らしてる。


 ほかにすることもないので、ここは頼まれた通り拭いてあげよう。



「おいで」


「はーい」


 ミールがボクに背中を見せるようにちょこんと座り込む。身体の至る所に小さな傷跡があったので、身体を拭くついでに治しておこうかな。


 ――はい、極大回復の魔法だよ。



「お兄ちゃん、ぽかぽかして気持ちいいよ」


「ボク、スルトだよ」


「うん! スルトお兄ちゃん」


「ジッとしててね」


 ――なんでしょうね。


 長い間、ボクのほうがみんなにお兄ちゃんやお姉ちゃんと呼んできたから、いざ自分がそう呼ばれると心の底がムズムズしてくるね。この気持ちはどう理解したらいいのだろう。



 アールバッツたちが次々出てきて、ボクが一人一人に身体を拭いてあげたんだ。アールバッツは自分の身体が極大回復の魔法で綺麗になったことにびっくりしたけど、特になにも言ってこない。



「マルス姉ちゃん、スルトお兄ちゃんが身体ふくの、きもちいいね」


「そうだね、気持ちいいね」


 ミールが犬の耳した女の子と楽しげに話しているんだ。


 なんでもウルフ族であるアールバッツの妹で、名前はマルスというんだって。大きなベッドに飛び込んだり、その下に潜り込んだりして、子犬や子猫たちは遊んでいる。



 子犬や子猫たちが着ている服は、ボクが勇者たちと行動したときに着ていたものなんだ。


 自分の拘りというべきかな、一度着た服は二度と着ないのよね。女の子のワンピースはよく魔王様に着せられたものをあげた。どうしてでしょうね、ボクが女の子の服を着ると侍女さんもすごく喜んでたよ。


 一時期は女の子の服しか着せてもらえなくて大変だったんだ。



 みんなの身体に合わせて、その場でちょっちょいのちょいで直してあげた。スルトはこういうことがとても器用だねって、聖女のヤスコがよく言ってたよ。


 さて、みんなはお風呂から出たし、そろそろご飯を用意してあげようかな。今日はちょっと面倒くさいなので、宿屋にお食事を頼んじゃおうっと。




「はい。お願いしますわ、スルトちゃん」


 あれ? イザベラがずぶ濡れの裸体で、ボクの前で座り込んで背中を見せてるけど、どうしたんだろうか。



「んん? どうしたの、イザベラ」


「ワタクシ、寛大にもスルトちゃんにお身体を拭かせてあげようと思いましたのよ。サッサとしてくださいまし」


 ――いやいや、イザベラはいつも自分で拭いてるでしょう?


 あ、そう言えばさき、ボクがみんなの身体を拭いてるところを風呂場から熱い視線を送り込んできたね。


 まあ、いいけど。ペットの手入れもご主人様の仕事だよね、勇者のヨシタニ。



「スルトちゃん、ワタクシもそのポカポカというものをしてくださいな」


「はいはい」


 まったく注文が多くて手のかかるペットだよ。


 怪我もしてないのに回復の魔法をかけてどうするのさあ。まあ、やってほしいならやるけどね。



お疲れさまでした。

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