説話60 元魔将軍は怒る
別に子犬や子猫の五匹が死んだって、いつものボクならなんとも思わない。
たとえそれがアールバッツたちの親はクラン・デなんちゃらに騙されて、ダンジョンモンスターをおびき寄せるエサとして使われて死んだって、冒険者ギルドの酒場で聞いても、ふーんそうですかしか思わないよ。
だって、騙す側がおバカなやつらを騙しきったということだね。
だがアールバッツたちはボクがあげた異空間のカバンを狙われて、クラン・デなんちゃらに捕まったのなら話は違う。
それって、ボクのせいなんだよね。
だからボクはちょっと様子見して来ようと思ったんだ。イザベラとレイヤルドさんはボクになにか言おうとしたが、ボクの顔を見たとたんにだんまりになったけど、二人とも言葉を失ったというべきかな。
ちょっとね、ボクも頭にきたんだあ。
ボクは良かれと思ってミールに異空間のカバンをあげたんだよ? それをボクに断りもなくミールから取り上げるとは、とても良い根性をしてるよね。
知ってる? 魔族ってね、ナメられるとカッチンときちゃうの。やっちゃうよ? ボク。やっちゃっていいよね。
――あ、そうだ。ボクはもう魔王軍の幹部でもなんでもないんだ。
魔王様はボクに自由をくれたんだよね? 遠慮、いらないね!
「スルト……」
「なあに? レイヤルドさん」
「迷宮都市だけは頼むから壊さんでくれ。クラン・デオアの後始末は冒険者ギルドの責任で必ず掃除しておく」
「うーん、気分次第かな? 考えておくよ」
ボクは街を走る。子犬や子猫の五匹の気配なんて魔力探知で簡単にわかるんだよ。たとえそれが死にかけ寸前でもね。
――あっ! あの建物にいるね、行くよ。
「なんだこいつ!」
「てめえ、ここがクラン・デッドオアアライブ知っての狼籍かっ!」
「こいつ、あのイザベラの従者じゃねえか? 飛んで火に入る夏の虫だな、バカだこいつ」
「だれかクランマスターを呼んで来い!」
あ、いたいた。子犬や子猫の五匹はもうちょっとで死んじゃうところだけど、死んでなかったらどうとでもなるのよねえ。
ボクはスルト、本当はすごいんだよ。えい、全回復だ!
「んあっ! なんだこいつの回復魔法は、獣人のガキどもが傷一つなく回復したぞ!」
「こいつなにもんだよ」
「あ、クランマスターが来たぞ」
「なんの騒ぎだ。ああ? あ? なんでクソガキどもはまだ死んでねえのか、殺せっておれが言ったじゃねえか?
てめえらはなにをやってやがるんだ! んでなんだあいつは? だれがそいつをここまで入れたんだ」
「いや、それがですね、勝手に玄関から入ってきたらしいですよ」
「ったくてめえらはよ……おい、クソガキ、てめえはだれなんだ!」
おや? 野良犬どものボスが出てきたね。
これはちゃんと挨拶してあげないとだめだね。うーん、ここにいる人たちはみんな建物の中に入った。
よーし、この建物に魔法の檻をかけちゃえ。これでだれ一人としてここから出られないよ? すべてが終わるまではね。
うん! 用意完了。これで野良犬どものボスに答えてあげられるよ。
「スルトだよ」
さて、シツケと行こうか。シツケができないなら、殲滅しかないよね。
お疲れさまでした。




