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説話58 元魔将軍は病を退治する

 夢魔アルプは魔王領でもまれにしか見られない魔物なんだ。


 あいつらは魂に巣食い、人間であれ魔族であれ、じわじわと魂そのものを食い尽くしていく。


 ただあいつらは単体では生きられないので、必ずなにかの生命体に取り付かねばならないのさ。



 最初はそれこそ見かける度に滅ぼしたけれど、あいつらだって生きるのに必死なんだ。


 だからボクはあいつらを見つけては説得して、魔王領で結構見かけるある生き物に取り付かせた。


 神獣ユニコーンさ。


 ユニコーンは女神の乗り物として古くから伝わていて、その魂の量は膨大である。なんだって女神の乗り物だからね。


 でもね、ユニコーンも悪戯が好きでボクらも手を焼かせたんだよ。試しに夢魔アルプを取り付かせるとあらびっくり、大人しくなったんだよね。



 なぜユニコーンの話をしたというと、魔王領でもまれにしか見られない魔物であるはずの夢魔アルプが、目の前の男の子に取り付いてるのよね。


 夢魔アルプは宿主を大人しくさせるためにとても気持ちのいい夢を見させる。それでユニコーンも大人しくなるんだ。でもここは人間の国、ユニコーンなんていない。


 さて、どうしたもんだろう。



「あの、息子は病気じゃないのならいったいなにに患っているのでしょうか?」


「魔物に取り付かれているんだよね」


 シャドウン侯爵の奥方である女性はぼくにしがみ付いてる。藁にでも縋りたい気持ちなんでしょうけど、やつれているからご飯と睡眠はしっかりとね。



「なんとか、そこをなんとかしてもらえんだろうか!」


「うーん……」


 ボクは迷っちゃったのよね。


 夢魔アルプを退治することはそれほど難しくないけど、その後が実に大変なんだ。引き受けていいかどうかは迷ってしまう。



「報酬ならいくらでも出す、言い値でいい!」


「息子を、息子を助けて下さいまし!」


 シャドウン侯爵夫妻は涙を流しながらボクに懇願していくるんだ。レイヤルドさんはになにも言わないけど、頼む助けてやってくれって顔がありありなんだよね。


 ――どうしようかなあ。



「報酬とかはいいけどさあ、そのあとが大変だよ?」


「息子を助けてくれたらあとは何とかする!」


 わかった。シャドウン侯爵がそういうなら、ボクも手を貸すことはやぶさかじゃない。


 さっさとやっちゃおうか。


 シャドウン侯爵の息子の幸せそうな顔を手で掴むと、ソレを引っ張り出すように一気に剥がしてやったのさ。夢魔アルプをね。




『なにすんだよコノヤロー! あっしの邪魔をするとは、ずいぶんと恐れを知らぬやつがいたもんだ』


「やあ、スルトだよ。こんにちは、夢魔アルプさん」


 ほっそりとした実体のない影みたいなものがボクの手で掴んでる。そいつは銀色に光る目でボクを見てたけど、ボクの魔力が読み取れたのか、急に震え出した。



『――すんませんっした! わざとじゃないっす。こうでもしないと生きられませんから許してください!

 あっしはどこかへ消えますから殺さんでくれ』


「殺さないよ? 大人しくボクについてくる? 魂くらいは食べさせてあげるから」


 ボクの魂の量なら夢魔アルプがいくら齧ったって痛くもかゆくもないもんね。



『本当っすか? マジっすか? 嘘つかないならあっしはついて行くっすよ』


「ボクが嘘でもつくと思うの?」


 ボクは両目でしっかりと夢魔アルプの目を見つめた。こいつならわかるはずさ、ボクが魔族だってことね。



『旦那! あっしはどこまでついて行くっす!』


「じゃあ、影に入っててね」


 夢魔アルプをボクの影に放り込んだ。はい、終わりだね。



 みんなに目を向けると呆然とボクのことを見ているがそう言う場合じゃないよ? 息子が起き上がって来るんだ。



「う……うん……ここは?」


「まあ、クラウデリアが起きたわあなた!」


「ああ、クラウデリア! クラウデリア!」


 あ、シャドウン侯爵夫妻は息子の所へ行ってるけどさあ。むやみに近付かない方がいいよ。



「……起きてしまったか……

 なんで僕を起こしたんだよ! パパとママのバカーっ!」


 暴れていますね、シャドウン侯爵の息子さん。


 しょうがないよ、夢魔アルプが見せる夢はとっても気持ちいい。それこそ夢見心地いいんだよね。



お疲れさまでした。

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