説話56 元悪役令嬢は咽び泣く
冒険者ギルドの外で、騒ぎになったギルドを確かめに来た侯爵領騎士団にレイヤルドさんが対応してる。
よく見ると街のあっちこっちで人が倒れたりしていて、それを騎士団の人たちが忙しく看病してる。やっちゃった感じ半端ないなんだけど、これもエルフさんとの約束を果たすためからいいよね。
魔力であてられたらちゃんと休んでおけばすぐに治るし。大丈夫大丈夫。
「話はつけたぞ、今からシャドウン侯爵様にお会いしに行こう」
「はーい」
ボクがレイヤルドさんに返事すると、騎士団の人が横から歩いてきた。
金ぴかの装備をみるとこの人が一番のお偉いさんかな? 騎士団長ってやつだろうか。
「シャドウン侯爵領騎士団の副団長のカリエンズだ。
お前がサンダードラゴンの肝を取ってきた冒険者か? それにしては幼過ぎだが」
「ワタクシこと、イザベラ・ジ・エレガンスがドラゴンさんをお茶の子さいさいで倒したのですわよ。オホホホ」
カリエンズさんという中年の人間は食い入るようにイザベラを見つめてる。あまりにも見つめるものだから、イザベラのほうが居心地悪くなって、そのカリエンズさんに問い質した。
「なんですの? ワタクシの美しいお顔になにかついていますかしら?
それとも美し過ぎて目を逸らすことができませんのかしら? オホホホ」
「……いや、なんでもない。これは失礼しました。レディの尊顔をジッと見るものじゃありませんでした。
どうかお許しください。ところで馬は乗れますか?」
カリエンズさんはフッと気を抜いたように、改めて人の良い笑顔をイザベラのほうへ向ける。
イザベラはさも当たり前のように、右手の手のひらを口元に当ててからカリエンズさんに返事をする。
「オホホホ。乗馬はレディの嗜みですもの、それこそ眠りながらでも乗れますのよ。オホホホ」
危ないから寝ながら馬に乗るな。
「さようでありますか。それでは3頭をご用意いたしますのでお待ち頂きたい」
「スルトちゃんはワタクシと同乗しますのでお爺様とワタクシの2頭で宜しいですわよ」
「畏まりました、そのように用意させて頂こう」
え? そうなの? 乗馬なら得意ボクも一応は乗れるけどね。スレイプニルとかユニコーンとか。
まあ、ここはペットの顔を立ててあげるからいいか。
「ところでここからは私の独り言なので聞き流してくれるとありがたい」
ボクは体に大きなクッション二つが付いてるイザベラの前に座って、頭が二つのクッションで固定されてる。
馬が進んでいると隣に来たカリエンズさんが急に話しかけてきた。
ボクとイザベラが返事してないことを確かめてから身体を前へ向ける。
「国王の命により、勇者の罪人であるメリカルス元伯爵一族はことごとく討ち果たしたとの知らせが早馬で届いてる。
かの者のご令嬢であられたイザベラ・ゼ・メリカルス様も命が失われたものと書き記された。
それとは別の勅命が同封されて、ご令嬢によく似た女性が現れてもそれはイザベラ・ゼ・メリカルス嬢にあらず、ただの別人で扱えと国王より厳命が下されてる」
「……」
淡々とカリエンズさんが語られている中、ボクの上から雫がポタポタと落ちてきた。
ボクは前へ向いたままで街並みを眺めるけど、時折り頭上から喉を詰まらせる音が聞こえてくる。こういうときに変な慰めはいらなかったのよね、聖女のマユミ。
「ワタクシは冒険者のイザベラ・オブ・エントランスですわよ!
だれよりも強く生き抜いてみせますわ!」
あれ? なんか名前がまた変わってないかい?
お疲れさまでした。




