説話6 勇者は魔王の真価を知る
時は今、勇者と魔王の最終決戦。
クロスファイアーと名付けるこの技は、不良に見えてその実はゲームとラノベ大好きな金山が考え出した技。沼田たちはこの世界に移転させられてから、一応は騎士団の訓練とダンジョン巡りで鍛えさせられたが、みんなの持つ戦闘能力が低いことは沼田たちが一番痛感していた。
そんな中で金山が魔王との戦いに備え、合わせ技を作ってはどうだという提案に、仲間たちは呆れながらも賛同した。何度も失敗をくり返し、時には沼田が技を食らってしまって大怪我することもあったがようやく完成した時に、みんなが抱き合って喜びを分かち合った。
だが、彼と彼女らはすぐにこの技は失敗作であることに気が付いた。タメを要するこの大技ではわざわざ待ってくれるバカな敵はどこにもいない。だから騎士団員たちからの嘲笑や冷笑した理由はやっとというべきか、沼田たちにもそれで理解できた。
だけど魔王だけは違った。律儀にも沼田たちの最終奥義を待ってくれたので、心のどこか小さな痛みを感じながらも金山は満足感を得ることができた。
「やりましたね、かなっち」
「当たり前だ、俺らの前に敵うやつなんていないって」
夕実と金山が喜んでハイタッチする中、沼田と明日花は起きる異変に気が付く。魔王を滅ぼしたはずの炎気が一向に消えようとしないからだ。
「待って、おかしいわ」
「ああ、そうだ」
沼田と明日花が攻撃の姿勢を解かないことに、夕実と金山は二人の会話を訝しそうにみつめたが、聖炎剣気の向こう側から聞こえてくる涼しげな声に、四人とも血の気が引く感じに慄いた。
「あらあら、これは中々興味深い技だわ。一番弱い勇者と思ったことをわらわに詫びさせてくれないかえ」
魔王は片手で沼田たちの最終奥義を受け止めた。しかもそれを手のひらに乗せて、愉快な表情を彼らに見せつけてる。
「もう終わりかえ?」
魔王はそう告げてから手のひらを握りしめ、それを合わすかのように沼田たちの最終奥義で放たれた聖炎剣気は、魔王の手によっていともたやすくかき消された。
沼田以外の仲間たちが次々と持っている武器を手放し、膝が折れてそのまま床の上に座り込んだ。
最終奥義が通用しない以上、沼田たちにそれ以上の攻撃手段がない。
それが最大の技であるゆえに、彼らは最終奥義と決めていた。
「次はなんだったっけかえ? そうそう、たーんだわ。次はわらわのターンね、構えるといいわ。異世界の勇者たち」
言葉とは裏腹に魔王の姿勢があまりにも自然体だったので、沼田以外の仲間たちは反応できずに座ったままだ。沼田だけはすぐにインベントリーから聖なる盾を取り出し、座り込んでる仲間を守ると盾を構えようとしたが、背中に激痛が走ったことに沼田はゆっくりと頭を後ろへ振り向いた。
「ごめんね、お兄ちゃん。痛かった? でもこれで終わりだよ」
そこに立つスルトが沼田たちと出会って以来、いつもと変わらない無邪気な微笑みを沼田にみせている。
お疲れさまでした。