説話54 元魔将軍は取りなす
「――そういうわけで、どうもボクにせいであの時にエルフたちがいなくなっちゃったんだ。
なんか帰りたいから手を貸してくれないかな? ごめんね? こういうのはガルスにしか頼めないんだ」
『エルフの件は確かに預かった。こっちに来れば我が名にかけて保護することを誓約しよう』
うん、やっぱりガルスは頼りがいがあるね。
これでエルフたちが魔王領へ行ってもすんなりと受け入れられるだろう。ということでケイタイをレイヤルドさんに突き出した。
「はい」
「むむ?」
「魔王軍序列一位の不動の魔神で魔王将アガルシアスだよ。
彼はきみたちエルフさんたちが魔王領に行ったときの身元保証人ってやつになってくれるってさ。話をしてあげてね」
恐る恐るケイタイを取ったレイヤルドさんはボクのマネをしてそれを耳に当てた。
「はい、エルフ族のクワル・レイヤルドです。族名の由来は今の魔王領にある帰れぬ森クワルです。して、あなたは……
あ、そうでございますか! これはとんだ御無礼を。はい……はい……いえいえ、そのようなご丁寧なお言葉を……
え? あなた様のご配下に? え? 何もしなくていいから? ……はい……いや、それはまことに厚き御配慮を
……はい、ありがとうございます……え? はい、今直ちに」
ガルスと長話したレイヤルドさんは目が点になって、ボクにケイタイを渡そうと手を伸ばしてきたので、それをボクは受け取ったさ。
「はい、スルトだよ」
『話はついた、エルフたちは魔王軍の魔王直属第一軍に所属。
エルフのみで構成した第一百三十九特別後方補給大隊を新設する』
「それはまた豪気だねえ、第一軍は最精鋭だもんね。それじゃあ、誰も手は出せないよ。
しかも後方補給大隊って前線の勤務はないもんね? ありがとう、ガルス」
チラッと二人のエルフに目をやったが、レイヤルドさんはボーっとしているだけで何も言わないまま黙り込んでる。
ルメクールくんは疑念を隠さない視線で今もボクを見てるんだよね、どうしたもんだろう。
そうだ、このケイタイは魔力で繋がっているからガルスに証明してもらっちゃおうと。
「ねえ、ガルス。ちょっと軽く魔力を飛ばしてよ」
『了承』
とんでもない魔力の波動がケイタイから迸って、それが周囲に拡散されていく。
あ、まずい。ガルスって、手加減をしないんだ。ガルスのことを証明させようと思ってしたことが失敗したみたいだね。てへ
「じゃ、じゃあね」
『たまには顔を見せろ』
ガルスとの通信を切ったボクはエルフのほうに目をやるが二人はすでに失神してまい、辺りは糞尿の匂いがプンプンと立ちこもる。
ボクは鼻をつまみながら二人が起きるまで待つことにした。
「この部屋に魔力遮断の術式を施していなかったら、今頃どうなってるやら想像するのも恐ろしい」
「その術式も破壊されたけどな……
アーウェ・スルト様。いや、スルトって呼んでと言ったな。
スルト、おれたちを魔王領にあるいにしえの森へ帰れる手配してくれたことに感謝します。ありがとうございました」
「いやあ、そういうふうに言われるとこちらも申し訳なく思ってくるのよね。
もっとボクがきみたちの祖先にちゃんと言えば、こんなことにはならなかったのになあ」
「いいえ、それは無理がある。
先祖たちを悪く言うわけじゃないが、スルトみたいな存在が現れたら、当時におれがいても移住することを賛成したのだろう。
そのくらい、魔王軍の力は恐ろしいと実感したよ」
「そう? そう言ってもらえるとボクも気が軽くなるね」
二人が起き上がってから、気恥ずかしげに着替える二人をボクは待ったんだ。
それでエルフとの話はついたけど、ギルドのほうがなぜか騒がしいのよね。
お疲れさまでした。




