説話51 元魔将軍はSSSランクの冒険者を引き受ける
お疲れさまでした。
冒険者ギルドは静まり返ってる。
ホールの天井に届くほどの大きな魔晶に誰もが言葉を失ってしまってる。これで迷宮都市のダンジョンに初めての踏破者が現れることになった。しかも、成し遂げたのは駆け出しのDランクの冒険者。
その名もイザベラ・ジ・エレガンス。
「オホホホ。皆の者、苦しゅうないでございますわよ。面を上げるといいですわ。
ワタクシこと、イザベラ・ジ・エレガンスにかかればこんなダンジョンなんて、お茶の子さいさいですわよ。オホホホ」
うん、心底からこのペットが底なしのおバカさんであることを喜んだことが今まで一度でもあったのだろうか? 否、ないね!
よかったあ、本当によかった。
これでボクが表に出ることはない。魔王軍結成からずっと裏の実力者で通してきたように、これからでもボクはイザベラの陰に隠れて色々と遊べるんだ。
いいぞ! イザベラあ。やって、もっと派手にやっちゃってよ。
ボクはご主人様としてきっときみを守るからね。イザベラが知らないだろうけど、ウロボロスは今もちゃんと影に潜んでるよ。
「こぞ……いや、スルト。よもや一度のダンジョンアタックで踏破まで果たすとは思わなんだぞ」
ちぇ、エルフの爺さんにはバレバレか。まあ、いいけどね。
「とりあえず、サンダードラゴンの肝も持ってきたよ」
「踏破を果たすおぬしなら当たり前というべきかな。
50階層の主サンダードラゴン、あれで今まで冒険者たちが阻まれたんだ。これでやっとその下へ行けるというものだな」
「無理と思うよ。新しい50階層の主はギガンテスクイーン、あれは手強いと思うね」
「なんと! ギガンテスクイーンだと? あの魔法の通せぬ、怪力無双を誇る巨人たちの女王か」
いや、魔法は通るよちゃんと。ただ人間やエルフ程度の魔法が通らないだけの話だよ。
まあ、ここで言うことではないのでボクも黙るけどさあ、囚われものは罪を償っているだけ、できれば死んでほしくない。
だからイリアスにお願いしたんだ。
今の50階層の門番はアダマンタイトゴーレム。
これを倒さない限り、ギガンテスクイーンに会うことはない。しかも五体だから頑張ってね、冒険者さんたち。大丈夫、逃げる時は追いかけないようにちゃんと伝えているから。
「わかった、情報に礼を言う。ちなみに迷宮の主は何者だ?
いや、教えてもらえるとありがたいだけだ」
ダンジョン踏破は成し遂げた者だけの機密らしいね。
まあ、言っても全然かまわないよ? どうせ、人間などの種族ではどうこうできる相手ではないし。
「カオスエンシェントドラゴンだよ」
「……」
ほら、やっぱり黙り込んでしまったよ。
「スルト、立っての願いがあるからついて来てくれぬか?」
「いいよ」
エルフのお爺さんはなんか思いつめた顔をしてるし、別にどこに行こうか、そこになにがあろうかボクにはかまわないよ。
冒険者ギルドには地下があって、そこをエルフのお爺さんと無言で歩いているんだ。
案内された一室で中には若いエルフの男がもう一人いた。
「お前がスルトか!」
「スルトだよ」
すごい顔をしているね、ボクは彼になにかをしたのかな。その顔に見覚えがないから初対面のはずなんだけど。
「クワル・ルメクール。ここにスルトを呼んだのはケンカをするためじゃない。それが聞けぬというのならここから出ていってもらう」
「くっ……」
エルフの若い男は立った席に座り直した。
エルフのお爺さんはボクにも座ることを勧めてから一枚のカードをボクに差し出してくる。
黄金色に輝いているのはボクの名が記された冒険者カード、アーウェ・スルトというの名でね。
「アーウェ・スルト。これはSSSランクの冒険者のカード、是非おぬしにそれを受け取ってもらいたい」
「いいよ、受けて取ってあげる」
しばらくその冒険者カードを眺めていたボクは、にっこりとエルフのお爺さんへ笑顔を見せた。




