説話50 元魔将軍は迷宮踏破を達成する
『汝、我が迷宮を踏破したと認める。
我、これより眠りにつく。そのダンジョンコアを証として持ってゆくがいい』
「ほわー……スルトちゃんはすごいですのね。
魔王が住んでたダンジョンを破壊することができるなんて、ワタクシ感激ですわよ。オホホホ」
「ありがと」
それ、ガセだからね。
しかも、破壊はしていないからね? ダンジョンボスのカオスエンシェントドラゴンも眠りにつくって言ったよね? って、もう寝てるよイリアス、はやっ、早いよイリアス。まっいいけどね。
イリアスはボクが出した巨大な魔晶を身体に吸収するように埋め込んでいくと、ダンジョンの雰囲気がガラッと変わったんだ。
なんというでしょうね、とんでもない強力な迷宮に生まれ変わったというべきかな。まあ、イリアスはカオスエンシェントドラゴンだし、巨大な魔晶は彼女の魔力タンクに成り代わってるから当たり前なんだけど。
しかも、イリアスはボクの影で長年付き添って、知ってる魔物の種類はセクメトでは比べられない。
自分で言うのも変だけどさあ、この迷宮は人間程度じゃ踏破はできないよ? その分、ダンジョンモンスターが出す素材は段違いくらいよくなってると思うね。
魔王軍の中級幹部なら下層は良い遊び場になるはずさ。てへぺろ
セクメトはいま、ボクの影の中にいる。
太陽が弱点の彼女をどうしたら外に連れ出せるかと悩んでいたところを、スヤスヤと寝てるイザベラを見て、ボクにアイデアというやつが浮かんできた。
要するに遮断できればいいんだよね。
イリアスにお願いして、彼女の竜鱗を分けてもらった。
イリアスの竜鱗はほかのドラゴンと違ってとても柔らかい。それでいて攻撃を受けたときは瞬時に最強の硬度を引き出すという優れもの。あれでボクもイリアスには手を焼いてたんだ。
もっとも、異空間にはイリアスが脱皮した竜鱗はいっぱいあるけど、こういうのは気分だよね。
あとは出来上がったワンピースみたいな服に魔装防御を施してはい終わり、これでセクメトは太陽の下でも歩けるさ。
仕立て上げた服装を着て、セクメトは大層よろこんでたけど、ダンジョンを踏破したボクはもうここに対する興味を失った。なんかオリハルコンの剣が宝箱から出てきたから記念に取っておいた。
まあ、使わないけどね。
そう言うわけでイリアスには一芝居を打ってもらうことにして、ボクは失神から熟睡に変わったイザベラを蹴り起こした。いつまでグースカ寝るつもりなんだろうね、この能天気なおペットさんは。
帰りはとにかく早かった。
ダンジョンボスのイリアスはダンジョンモンスターが出ないように手配してくれてるからね。寂しがるかなと思って、いつ会いに来ればいいと訊ねてみれば、五万年後でいいですって。
覚えていたら来てあげるよ。
ここは50階と最深層にしか生きたボスがいない。
50階に戻って来たときは新しい囚われのボスが到着してた。ギガンテスクイーンだね。暗黒神にでも言い含められてるのかな、土下座でボクとイザベラを見送ってくれたよ。
「オホホホ。ワタクシの実力に恐れ入るとはあなたも中々見上げたものですわね。
お勤め、ご苦労さまですわ。オホホホ」
きっとおバカさんなんだろうね、このペットは。
お疲れさまでした。




