説話49 元魔将軍は新たなダンジョンボスを据える
『すっきりしたああ。気持ちよかった。
ありがとうございました、スルトさま』
「そう。それはよかったね」
こっちには向けていなかったけど、セクメトがありったけの恨みを込めて、ケイタイを通して呪詛を暗黒神に送り込んだね。
あれならボクでも三日間は耳鳴りし続けるよ。
――怖いね、女の恨みを買うと。
それはそうとセクメトのお願いを叶えてやらなくちゃね。
「セクメト、ダンジョンコアを出して?」
『はい、これなんですけど』
セクメトが空間に出現させたのは、二階建ての建物はある大きな加工魔晶。
これは暗黒神が魔晶を集めたうえで作り出したものだと思う。貯めてる魔力は多いけどまだまだだよな。不純物が僅かに混じっているよ。
「セクメト、これはボクがもらうね」
『それはいいですけど、これがないとダンジョンは維持できませんよ?』
「知ってるよ? だから新しいダンジョンコアとダンジョンボスをボクが用意するんだ。
セクメトはそれで解放だね」
『スルトさまああ……』
はい、一々抱き着こうとしない。
きみはなにか? ボクに仕えていた侍女さんと同じか? なにかしてあげる度にいちいち抱きつこうとするんだね。
暑苦しいからあっちに行って。シッシ
「出でよ。カオスエンシェントドラゴン」
真っ黒の巨大な古龍がボクに影にある異空間から呼び出された。
『おや? あるじじゃないですか?
お久しぶりね、お休み』
「寝るな」
スパーンッ
手にしているのは世界樹の樹皮で作った巨大なハリセンというもの。
これはカンサイというところに住んでいた賢者のミヨシが教えてくれたものだよね。
なんでもぼけとつっこみの場合に必要な道具だとか。実際に聖女のミサキと二人でどのような場合で叩くことを演じてくれたんだ。
優しかったよあの二人は。
まあ、刺しちゃったけどね。
『あるじ、痛くないけど痛いじゃないですか? お休み』
「寝るな」
スパーンッ
そうなんだよ、このメスのカオスエンシェントドラゴンであるイリアスはとにかく寝たがるんだよ。
魔王領の最奥地で彼女と出会って、彼女の縄張りに侵入したボクらを襲ったのはいいんけどね、ボクが彼女と一週間にわたる激闘の末に、待っていたのは彼女が眠たいから負けを認めるという、まったくしまらない決着なんだ。
一応は魔王軍に誘ったのだがそういうのは寝るのに邪魔だから、ボクのしもべになると言って、今までずっと影にある異空間の中で眠りっぱなし。
「イリアス、ここをどう思う?」
『ここですか? ひんやりしてて気持ちよさそうです。おや……』
「寝るな」
もうマンザイとかいうお遊びは飽きたのでハリセンは収納したんだ。
「ここでダンジョンボスをしてくれないか?
なあに、挑戦してきたやつらを撃退すればいいからね」
『いいですよ。でもダンジョンって、あの暗黒神のいけ好かない野郎の作ったものでしょう?
あるじの命令なら従うけど、ダンジョンコアっていうものが必要ですよね』
「ああ、だからこれを預けるよ」
はい、ダンジョンコアとなる魔晶ならボクも持ってるのよね。
しかも自然の魔晶だから不純物がほとんど混じってないんだ。
高さはね、カスミガセキというところと同じくらいじゃないかな? え? なんで知っているって? そりゃ、勇者のセキグチが最初に魔王城の城門を見たときにそう言ってただもん。
ちゃんとボクは覚えているよ?
みんなのことは忘れたことがないんだ。刺したときの悲しい顔、怒りの顔、疑っている顔もちゃんと覚えているんだ。
たとえそれがチクチクとずっとボクの心を刺していてもね。
お疲れさまでした。




