説話47 元魔将軍はダンジョンボスと会う
元サンダードラゴンさんのアークドラゴンさんは今、ボクの影の異空間にいる。
お友達が一杯だから楽しくおしゃべりするか、バトルってやつしているかのどっちかだね。
まっ、ずっと寝ているやつもいるけどね。
「ねえ、起きてよイザベラ」
「ゲフっ!」
ペットに蹴りを入れてやった。先から呼んでやってるのにちっとも起きて来ないんだもん。
「あ、あら、スルトちゃん……
そ、そうだわ! ドラゴンさんはどこへ行かれたですの?」
「寝ぼけてないで行くよ」
「待ってえ、お待ちになってえ」
イザベラは手と足をバタつかせて慌ててボクについて来ようとする。出来の悪いペットを持つと大変だよね。でも気にしないで行くよ?
ほら、ついでおいで、チッチ。
この迷宮は深い、今は百層を越えたところだよね。
こうなるとイザベラでは厳しくなったので、ボクが前衛に立つことにしたんだ。デュラハンとか、ヒュンドラとか、イザベラではちょっと手が余ると思うのよね。
イザベラには即席で作った異空間のカバンを渡してる。
ゴミと言っても少しは値打のありそうなゴミだから、彼女に拾ってもらうことにした。異空間のカバンはヒュンドラを倒したときにドロップしたヒュンドラの皮で作ったもの。
拾ったものはアールバッツに渡すつもりだけど、なにを渡すかはダンジョンを出てから考えよう。ミスリルのナイフはいいとしても、さすがにアダマンタイトの武器や装備が盛り沢山はどうかと思っちゃうんだ。
ボクはいいのだけど、人間ってほら、欲深いでしょう? パペッポ村にいる時にハイポーションの件でしっかりと学ばせてもらったからね。
「ね、ねえ。スルトちゃーん……
ここ、ちょっと薄暗いですわね。ワタクシ、お化けとか幽霊とかが大の苦手ですわ」
地下階層150階、どうやらここが終点だね。
天井が高く、ただ広いだけの空間が奥まで広がっていて、壁が見えて来ないのよね。
しかもここは敵が一向に出てこないんだ。経験上、これが最終層になるはずだ。ここでダンジョンボスを倒せばダンジョンコアが現れるんだ。
『うらめしや……』
「ヒーっ、お化けさん!
あーれー……キュン……パタン」
地獄の底から底冷えする声にペットがまた情けなく失神して倒れ込んだ。
使えないペットだよね、これは三日飯抜きの刑に値するよ。まあ、おやつくらいはあげるけどさ。
『憎い、眩しい日差しの中でキャッキャウフフしてきたお前らが憎い。
ウチがこの薄暗いダンジョンの底でシクシクと寂しく泣いてるのに、これでもかとくんずほぐれつ乳繰り合って揉みしだいてるお前らが憎い』
目の前にいきなり顕現したのはドラウグル。
血の涙を文字通りに流しながらボクと気を失っているイザベラを憎らしげに睨みつけてるんだ。
彼女の身体からは死の匂いが立ち込めていて、それは悪臭ではなく逆に人を気絶させしまうほどの良い匂いなんだ。
この匂い、どこかで……
「――セクメト? ねえ、セクメトなの?」
『ウチの名をどうして人間ごときが……
って、この魔力、もしかして……』
「ボク、スルトだよ」
『スルト? ええっ?
もしかしてアーウェ・スルトさまなの?』
「もしかしなくてもスルトはボクだよ」
『スルトさまああー!』
ボクはスルト。
迷宮都市のダンジョンの一番深層でドラウグルのセクメトに抱きしめられました。
お疲れさまでした。




