説話45 元魔将軍は魔道具で連絡する
「そうか、それはきみが悪いよ」
『知ってる。だからここに囚われることも了承した』
このサンダードラゴンさん。森で拾い食いして、間違ってマズリの実を食べたらしい。
あれは痛覚を鎮めるとともに幻覚を引き起こす効果があって、治療の時によく使われる果実。
そのままだと幻覚の効果が抜群だよね。たぶんこのサンダードラゴンさんはそれで魔王領を暴れまわったと思う。
『はあ……囚われて千年、山はどうなっているのかなあ……
帰りたいなあ』
「そんなに変わってないと思うよ……
――それよりも千年ってなに?」
『そう、おれがここに来てもう千年が立つ。
窮屈で退屈で幾度みずから死のうと思ったことか……』
「それはおかしいよ。暴れるくらいで重くてもせいぜい五百年の刑だよ?
ちょっと待てね」
目を丸くしたサンダードラゴンさんをよそに、ボクは異空間から自分が創ったケイタイという魔道具を取り出した。
これは聖女サナエに見せてもらったものを自分なりに手を加えて作ったもの。
だって、あのときはスマートフォンなんてものはなかったのよね。
「あ、もしもし。オレオレ」
『……オレオレサギか、ケイサツを呼ぶぞ』
――あははははは、ノリがいいのよねえ暗黒神は。
このやり取りもサナエに教えてもらったんだ。
なんだかとても楽しそうなので、ケイタイを渡した人にこういうふうに言ってもらうことにしているんだ。
もちろん、魔王様には……渡してませんよ。
あの人は寂しがり屋だから用事もないのにかけまくるに決まってる。そうなったら絶対にうるさいったらありゃしない。ナシアース・メリルにはって? ボクを自殺させる気ですかあなたは? 死んでも渡さないよそんなの。
30秒置きの無言通信をだれが受けたいと思うの? いたらここに来てよ、ナシアース・メリルを紹介するからさ。
「暗黒神、ちょっと聞きたいだけど。
人間の国にある迷宮の地下階層50階にサンダードラゴンさんがいるんだけどさあ、囚われてもう千年は立ったって言うのよねえ。
それっておかしくないかな? ちょっと調べてよ」
『わかった、今すぐ調べるから切らないように……』
「……」
うん。サンダードラゴンさんがボクに救いを求めるような目で見てるねえ。
ちょっと待っててね? こういう間違うことは暗黒神が一番嫌うんだ。なんせ善悪の審判を司る神でもあるから。
『……ごめん。こっちの手違いでそいつは三百年の刑しかうけておらん。
そこのサンダードラゴンさんに許してほしいと伝えてくれ。
新しい囚われものをすぐにでも送り込む――それと悪いけど償いを代わりにしてほしい。』
「わかった、こっちでなんとかするね。じゃあね、バイバイ」
暗黒神との通信を切ったボクはサンダードラゴンさんを見て、頷いてあげた。
これでサンダードラゴンさんは解放だ、山に帰してあげられる。
ボクを見たサンダードラゴンさんは大粒の涙を流して、おいおいと大泣きしてる。
やめなさいよ、ボクは大丈夫だけど、イザベラは呼吸するから溺れたらどうするのさ。
ペットの健康管理も飼い主さんの務めだからね。そういうことを勇者のヨシタニがよく言ってたなあ。
お疲れさまでした。




