説話41 元魔将軍はSSSランク冒険者に指名される
『それはまことであろうな』
数多の精神体がこの大きくない部屋に集まってきた。
魔晶石を媒体にエルフは精神をそこへ飛ばすことができ、これはエルフが持つ秘法の一つだ。
「はい、間違いないかと。魔族は名を偽らぬ、偽る必要がありませぬ。
彼は確かにスルトと冒険者カードに記されているし、その名で呼んでもしっかりと返事された」
『そうか……』
静かになる部屋の中をひと際大きな声が叫び響いた。
『おのれアーウェ・スルト! 我らの先祖を追い出した仇め!
よくもすこすこと現れたもんだ、先祖の仇に殺してくれる!』
その声の持ち主ににレイヤルドは冷笑を禁じえなかった。
「誰が? どうやって? わしは絶対に反対だぞ。寝ている虎を起こす必要はない」
『臆したかクワル・レイヤルド! お前とてアーウェ・スルトは先祖の仇だろうが!』
「そう、アーウェ・スルトは今でも先祖を森から追い出した仇。
わしのことを臆病者と呼びたければそう呼ぶがいい。だがあれはいかん、いかんだよ。
触らぬ神に祟りなしだ。あれがわれらエルフに刃を向いてきたら、わしにはどうしても抗う手立てが思いつかん」
『それほどのものか』
二人の言い争いに口を差し込んできたのはエルフの最長老。もっとも叡智を持つ当代のハイエルフ。
「わしの身命をかけてもいい、あれには手を出さぬでほしい。
今となってまことに先祖の英断を褒め称えてやりたいものだ」
『クワル・レイヤルド! なにをほざくか、おれは認めんぞ!』
『クワル・レイヤルド。汝はどのようにしてその者を扱うつもりか、申してみろ』
騒ぎ立てる声を無視して、最長老はレイヤルドの意見を聞いてくる。
その答えはすでにレイヤルドは用意しており、それを申し出するためにエルフ長老たちの招集をかけたみたいなものであった。
「はい、かの者をSSSランクの冒険者に推薦する」
『なんと! SSSランクだと!』
『バカ者クワル・レイヤルド! 仇をSSSランクの冒険者にしてどうする?
おれは賛成しないからな!』
様々な声が囃し立てる中、エルフの最長老であるハイエルフはレイヤルドの真意を訊ねる。
『……クワル・レイヤルド。
我らエルフの長老と同位となるSSSランク冒険者、かの者を未だかつてなった者がないSSSランク冒険者にしてなんとする。』
「やつに縛りをつける、それ一点のみ。
アーウェ・スルトはどうも目的を所有しておらぬようにみえて、ただ人間の国を見物していると思われる。ならばアーウェ・スルトが人間の国でなにを成すかを見極めたい。
それにやつが召喚勇者に対する切り札でもなってくれれば、それこそわれらエルフの幸運になると思う」
『……宜しい、そこまで考えたなら異論はない。
われはハイエルフしてエルフの最長老であるログェック・クセスムル。
かの者アーウェ・スルトを冒険者ギルドのSSSランク冒険者として今よりそのことを認める』
スルトが知らないところで、彼は今までだれもなったことのないSSSランク冒険者に指名された。もちろんスルトはそんなこと露とも知らずに。
『くそーっ! おれは絶対に認めないぞお! レイヤルド。おれはそっちにいくからなあ!』
精神体が次々と消える中、虚しい絶叫だけが部屋にひにき渡っていた。
お疲れさまでした。




