説話35 元悪役令嬢は武闘家となる
「綺麗なお姉さん、おいしいジュースいかがっスか! 美味しいよ!」
「あらまあそうですの? 今は喉が渇かないから今度にしますね」
「ベッピンなお嬢ちゃん、串焼きはどうじゃ? 珍しいコカトリス肉だから美味しさは保証するぜ」
「それは確かに珍しいですわね。ところでコカトリスってなんですの? ワタクシ、聞いたことがありませんのよ。オホホホ」
うん、楽です。ペットを飼ってよかったよ。みんなが綺麗と称えるイザベラに注意が行って、後ろで控えるようについて行くボクのことは従者と思われているようで、一向に話してこないね。
それにしても人間の街って退屈、見るべきものはなにもない。
魔王城の建設はボクが手掛けているんだ。勇者たちから聞いた話をこっちの世界に合わせて建て替えしたりしてるからね。もしボクが案内役を務めないと、悪いけど本城にたどりつくことは難しい。建物の一つ一つが要塞の役割を果たしてるから、本城に着くまできっと全滅しちゃうかもね。
まあ、勇者が攻めてこないからあまり意味がなかったけど。
「よお、美人ちゃんだね。俺達と遊ばねえか? くんずほぐれつして大人のお遊びだがね」
下品そうなクサいおじさんたちがボクらを取り囲んでいる。これもテンプレってやつだね。ラノベを知っている勇者たちならだれもが言ってたから、最初に教えてくれた人は忘れちゃったよ。てへ
「あなたたち、悪いことは言いませんわ、今すぐ消えなさい。でないとひどい目を合わせますわよ」
イザベラは珍しく怒った顔をしている、だけど彼女の気持ちは理解できるんだ。
彼女と出会ったきっかけは彼女が人間の男たちに襲われたから。でもちょっとは残念だよね、交尾を見たかったなあ。イザベラは誰かと交尾することは、もうやってはくれないでしょうね。本当に残念だよ。
「ぎゃははは、笑える。この女は頭がいかれてるじゃねえか。ひどい目を合わせるだとよ」
「けけけ、マジだよ。この女をヒーヒー言わせようぜ」
「ガキはよ、売り飛ばそうぜ。綺麗な顔をしているから高く売れるぜ」
「おら行った行った! 見せもんじゃねえぞおらー!」
おじさんたちはじわりじわりと押し寄せてくる。外側にいる人の群れはだれも近寄ろうとしないでただ見ているだけ。これがヌマダの言ってた治安が悪いってことなのかな。まあ、ここはイザベラに任せる、彼女には特製の武器を渡してあるんだ。
「おい、女がなんか持ち出したぞ。ありゃ棍棒か?」
「ぎゃははは、笑える。棍棒二本で俺らをやろうってのか」
棍棒じゃないんだってば、あれはトンファーとかいう武器らしいよ。
武器マニアの戦士ツジグチがボクに教えてくれたんだ、あれならイザベラも持ちやすいよね。素材にはこだわったんだよ? 魔王領の奥地にある世界樹の枝を妖精王と妖精姫からもらい受けたので、それを使ってイザベラの体型に合わせて作成した。アダマンタイト程度の武器なら、それで受け止められると思うさ。
「お逝きなさい」
「グホっ!」
一番近くにいたおじさんがイザベラの横殴りを食らって吹き飛ばされた。地べたに何回か回転して転がったおじさんはピクっと一回だけ痙攣して、それから動けなくなった。びっくりして硬直したおじさんたちをよそ目に、イザベラが次々とおじさんたちを殴り倒していく。
そうそう、攻撃って、手を緩めたらダメ。一気に行くもんさ。
それにしてもよくシツケされてるね、イザベラは良い犬だよ。
お疲れさまでした。




