説話4 勇者は魔王の本拠地に着く
「スルトくんは料理がお上手ね。ねえ、お姉ちゃんと結婚しない?」
「うん! ボクが大きくなったら婿さんにもらってね、美人のユミおねえちゃん」
魔王城への道のりで戦闘の出来ないスルトはみんなの食事を担当し、沼田と夕実が狩ってくるイノシシやシカの魔物を上手にさばいてから調理してる。余った肉は沼田たちが持っていた香辛料と塩で干し肉まで作った。
異世界に来てから、ろくなものを口にしなかった沼田たちの胃袋を十二分に満足させてる。
「っグハ! ……なにこの子? あたしを殺す気? キュンキュンさせて心臓麻痺させたいわけ? もう辛抱たまりません。スルトくん、おねえちゃんと大人の階段へ駆け登り……」
「バカなことしないの」
スルトに襲いかかろうとする夕実を明日花はすかさず必殺のチョップを頭に叩き込んだ。
スルトが住んでいた小さな村はここからそう遠くない山の奥にあるという。ある日、魔王軍が襲撃してきて、村人全員を人質にした魔王軍はスルトに村人を解放してほしくば、これから来るであろうの勇者を魔王城まで案内しろと厳命した。
そうしないと村人は全員が殺されるとスルトは魔王軍に脅されたらしい。
滅びの城から魔王城までの道、魔王城の内部を詳しく教え込まれたスルトは、僅かな食糧と水を渡されてから滅びの城の中に放り込まれた。待っているうちに食糧も水も切れてしまい、昏睡しているところを沼田たちに助けられたとスルトは彼らに感謝した。
スルトの話を鵜呑みにするほど、沼田と明日花は昔のように素直じゃなくなっている。金山と夕実は泣きながらスルトを争って抱きついたけど。
しかし、イノシシに襲われて死にそうになったスルトを金山が極大回復の魔法で助けたり、剣道部の主将である沼田が聖剣で斬りかかってみたが、スルトは反応ができないまま失禁して大泣きしたりと、たとえスルトが魔王軍の手先であっても、きっと取るに足りない小物に違いない。
沼田と明日花はスルトに対して、そのような認識を持つに至った。
それよりもスルトはとても聞き上手で、食事のあとはデザートを作ってから沼田たちの世間話に加わった。試験のこと、部活のこと、趣味のこと、家族のこと、彼氏や彼女のことなど、沼田たちはスルトを交えた雑談に夜遅くまで話の花が咲いてた。
「ここが魔王軍の本拠地か」
「うん……大きなお城の中にはいるとまたお城があるの。その中に魔王が待ってるって」
目の前に現れたのはそびえ立つ城壁。その高さは目測しても高層ビルよりも高く、考えるのがばかばかしくなるくらい魔王城というのは巨大な城塞である。
黄金色に輝く開いた城門をくぐると、その中は王国の王都よりも豪華な建物が林立していて、目が眩むような美しい街並みが魔王城の中にあった。しかも辺りの空気は香しく、王都のように時折り漂ってくる排せつ物の匂いが臭ってこない。
まったくどちらが魔都っていいたくなるくらい、沼田たちは溜息をつかせた。
でもおかしい。
沼田たちはそう思わずにはいられない。とんでもない大きさと広さを誇る魔王城には人影がまったく見見かけない。この城の中には誰もいないのだ。
「ぬまっち……」
「考えるな、空城の計かもしれない。スルト、前に来たときはこうだったか?」
夕実が心細げに沼田へ向かって呟いたが、沼田は勇気を振り絞ったように返事をしてからスルトに状況を確かめた。
「ううん……怖い魔物がいっぱいいたよ。ボク、食べられちゃうかと思ったよ」
「そうか。スルト、魔王の所まで案内してくれ」
身体を震わせるスルトに、沼田は前へ進むために言葉をかけた。
「嫌だ! ボク、ここに残るからおにいちゃんおねえちゃんたちで行ってよ」
自分を抱きしめるように両手で抱えたスルトはその場で身体を屈めてしまった。そこへ明日花が優しくその背中から抱擁する。
「ねえ、スルト。お姉ちゃんたちは道を知らないの、スルトに連れて行ってほしいな。大丈夫、魔物が出たら守ってあげるからね」
「本当? スルトを守ってくれるの?」
「ええ、そうよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんがちゃんとスルトを守るからね」
「……うん、わかった。でも! 魔王の所は怖いから行かないよボク」
スルトのささやかな抵抗に明日花は、スルトの顔に両手を添えて笑みと共に頷いて見せた。
「わかったわ、魔王はお兄ちゃんとお姉ちゃんで倒す。それでスルトの村も救われると思うからね」
お疲れさまでした。