閑話4 帰還勇者たちは魔将軍の気持ちを聞く
スルトの写真を受信したみんなはそれぞれの思いでその画像を見つめていた。
「はああ……やっぱりきれいよねこの子は。連れて帰ってやりたかったなあ」
「バカ言え。あいつに自殺しろって?」
「この子が魔将軍か……」
みんなは懐かしそうな目をするが、沼田だけはなぜか気炎を上げているようにスルトの写真をジッと見ているだけであった。
「あ、これ……」
明日花の声に写真を見ていた全員がすぐに反応を示した。
「なんだなんだ、今度はなに? 委員長」
「ほかの写真あるの? ちょうだいちょうだい!」
「うん、もしあったらぼくもほしい」
「ううん、違うの。これから読み上げるからよく聞いてね」
明日花はみんなに向けて、とても優しそうな笑顔を見せている。
「元気かな、みんな。ちゃんと自分の世界に帰れたと思うけど期末テストはうまくいったかな? 特にカナヤマお兄ちゃんは」
「言われてるよウリウリ」
「うっせい、あの野郎は異世界でなにを心配してくれてんだよ」
「ごめんね、みんなのことを刺しちゃって。あれでしかみんなを元の世界に帰せないの。だからボクも心が痛かったけど、魔王様がみんなに約束した通り、ちゃんと帰してあげることがボクのおつとめだよ」
「……」
三人が黙り込む中、明日花はスルトからの別れのメッセージを語り続ける。
「カナヤマお兄ちゃんは優しかった、極大回復の魔法をありがとうね。でもね、まだまだだよ。もっと魔力を上げて意識を集中しないと使ってる魔法が雑だよ。ゲームとラノベの話は楽しかった。ボクはおとぎ話が大好きだからね。お礼をいうね、カナヤマお兄ちゃん」
「うっせいよ、なんで上からの目線だよこいつ」
「魔王軍のナンバースリーだよ、ちゃんと教えてくれたからいいんじゃない」
「それとユミお姉ちゃん……プッ」
「なになに、今度はあたし? 早く読んでよ」
明日花はメッセージの内容に可笑しそうに笑ったから、夕実は気になって明日花を急かす。
「それとユミお姉ちゃん、ユミお姉ちゃんはいやらしかった。温かい肉布団をありがとうね。あ、肉布団というのは勇者サルタが教えてくれたんだよ」
「こらあーっ! どこのどいつだ! あたしの可愛いスルトになんてことを吹き込んでくれるんだ! やってやるから出て来いやおらー!」
「合ってるんじゃない? いやらしいところとか」
「かなっちてめえ……おまえもよろこっむぐー!」
「委員長、こいつの口はおれがふさぐから続けろ」
暴れている夕実を金山は抑えつけて、明日花に話の続きをするように伝えた。明日花はうなずいて、視線をスマホのほうに戻す。
「ユミお姉ちゃんはいつもみんなのことを考えて、まるで盾のように敵からみんなを守ってることはみんなも知っていると思うよ。だから、自分の世界に帰ったら、ちゃんと自分の幸せを考えるんだよ。
カナヤマお兄ちゃんはユミお姉ちゃんのことが好きだから、気付いてあげてね」
「……う、ううう……」
「いらねえお世話だっつーの。あの生意気なガキ……」
夕焼けの中で抱き合う夕実と金山。夕実の涙を金山は手のひらで拭いてあげると、夕実はより一層の力を込めてから強く抱きしめた。
「ヌマダお兄ちゃん、ごめんね? いきなり後ろから刺しちゃって。だけどね、避けられない方が負けだよね。ヌマダお兄ちゃんは歴代の勇者の中でもかなり弱い方なんだ。
でもさあ、それはしょうがないよ。半年だけじゃあ、能力はあげられないもんね」
「次は負けないぞ!」
次なんてないわよと明日花はそう思いつつ、拳を握りしめる沼田のことを一回だけ見て、スルトのメッセージを読み続けた。
「だが、魔王軍の幹部としてヌマダお兄ちゃんの勇者に対する姿勢は高く評価してるよ、ボク。
敵を侮らず、我欲に走らない、仲間を思う気持ち、どれも歴代の勇者の中でトップテンには入るんじゃないかな? 勇者を見てきたボクが言うんだから間違いはない。
――勇者としての素質は下から数えたほうが早いけどね」
「ぬおー、鍛えるから待っていろ! 強くなったら行ってやるぞ魔将軍アーウェ・スルトおおおお!」
気勢を張り上げる沼田をみんなは生暖かい視線で見ているだけ。思っていることはみんな同じ。
異世界より帰って来てから、変な方向に全力で突っ走てるけど、あんた以外はみんな行きたくないし、そもそも異世界へはもういけないからね? 沼田くん。
お疲れさまでした。




