閑話1 帰還聖女は物思いにふける
予鈴が鳴った、授業がまた始まります。
もうすぐ冬休み、来年なったらわたしたちも進路のこととか、部活のこととかで大変一年になると思うけど、なんでしょうね、この空虚感。
なにか置き忘れてきた気がする。
「よう、明日花。どうした、ボーっとして。魔法で目を覚ましてやろうか?」
金山君が牛乳とパンを持って屋上に来た。
異世界から帰って来たわたしたちはすでに日常に戻っている。たまたまクラスで最後まで残っていたわたしたちが、いきなり光に包まれたと思ったらそこは見たことのない世界。
惑いと驚きの中、周りにいる魔法使いたちから従属の術式という魔法を掛けられて、わたしたちは望まない戦うための奴隷になった。
金山君が曰く、それも今流行りのネット小説ではテンプレというものらしい。
「バカなことを言わないの。それよりもあんた、毎日が牛乳とパンじゃ栄養は取れるの?」
「本当本当、せっかくあたしがお弁当を作ってあげるってんのにこのバカはいらないって。ムカつくのよね」
夕実が腹立たしそうに文句を言ってるけどごめん夕実。あんたが作ったものはとても食べられたものじゃないことは、異世界で散々体験したから金山君の気持ちはわかるわ。
「アホですか、一回は死んでるからな、俺はもう死にたくないっつの」
「なにおおっ! あたしの料理は猛毒って言いたいわけあんた」
「そこまでは言わんけどそれに近い」
「この野郎お。そこに正座しろ、折檻してくれる」
じゃれ合っている夕実と金山君は異世界から帰ってきてから付き合っている。
吊り橋効果だけじゃないでしょうが、似た体験をしたのはわたしたち四人だけ。あの二人は異世界にいたときでも仲がよかったから必然の選択だったと思うの。
「ねえ、沼田君はまだかな」
「おいやめろって夕実……あ、あいつな、なんか試合があるらしいよ。自主練するから遅れるって」
「そう」
お昼ご飯を屋上で食べることは、いつの間にか四人の暗黙のルールになっている。別に超越した人になったとか、金山君が言った中二病にかかってるというわけじゃない。そもそも今は魔法も杖術も異世界であれだけ鍛え上げた能力は全て、そう全てが失われた。
帰還したのはやっぱり教室。
夕暮れで薄暗くなっている教室の中、先生に早く帰りなさいと怒鳴られて、わたしたちはようやく我に返ることができた。異世界の装備も武器も道具も、全てが無くなったし、インベントリーという便利な魔法も使えなくなった。
一人でいると、本当に異世界に行ったという奇想天外な体験をしたのかなと自分を疑いたくなる。だからなのかな、今は時々こうして、四人で集まってお話とかしているの。
だって、四人で同じ時に同じ夢を見ていたほうが、異世界へ行ったことより信じられないことなんだから。
みんなが異世界に行く前と同じように、持ち物も身体も何も変わらない中、わたしだけは違った。
そう、わたしはスマートフォンを異世界に置き忘れたみたいなの。
帰還勇者たちのその後をちょっと書いてみました。
お疲れさまでした。




