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説話31 元魔将軍は悪役令嬢を拾う

「じゃあね、お姉さん。元気で頑張ってねえ」


「お待ちになって、こんなところに置いて行かないでくださいまし」


 ボクにどうしろっていうの? なんかこいつは既視感があるなあ……


 あ、ナシアース・メリルだ! ああしろこうしろとうるさいのよね。



「いや、そんなことを言われてもボク、お姉さんのことを知らないし」


「……う、ううう……お願い、こんな場所にワタクシを捨てないでよ……」


 はああ、気が滅入るなあ。捨てるもなにも、こいつ誰? って感じなんですけど。なんか泣いているからボクが悪いってことになっちゃうじゃないか。



 そう言えば勇者のヨシタニは言ってたな、拾った犬猫を捨てるやつは最低なやつだって。


 まあ、形的なんだけどボクがこのお姉さんを助けたみたいんだし、ここに捨て置くのもなんだか気が引けてきたし。仕方がない、拾ってやるか。飯をちゃんと食わせてやったらいいんでしょう? ヨシタニ。



「じゃあ、ボクに付いてくる?」


「うん! 特別にワタクシを助ける機会をさし上げてもよろしいですわよ。オホホホ」


 面倒なことになったなあ。ちぇっ。




 ワタクシを助けたのは綺麗な顔をした少年。ワタクシが呆けている間にワタクシを犯そうとした極悪な貴族どもを追い払ったみたいですのよ。そう言えばあいつら、どこへ消えましたのかしら? でも、そんなことはどうでもいいですわ。



 子供は自分はスルトと言いましたわ、悪くない名前ですわね。


 ワタクシの従者になってもらっても宜しくてよと思っていたところ、裸体のワタクシになんとあなた、アラクネの糸で作った服をさし出してきましたわよ。これはディアンドルワンピースっていう服ですのね。


 アラクネは獰猛な魔物で知られる、それを狩るのは凄腕の冒険者や熟練の騎士様でも至難の業。王国広しとは言え、王妃様さえ数年に一度くらいしかご購入できませんわね。このワンピースは見た目が町娘の着衣のようなダサさですけれど、まあ、そこは寛大なワタクシのことですからあ? 許してあげても宜しくてよお。


 オホホホ。



 わぷ……な、なに……わぷぽ……なになに、なんで大量の水が……わぷぷ……



「お姉さん、いま魔法で温い水を出してあげてるからさあ、良く洗ってね」



 魔法? わぷぷ……ちゃ、ちゃんと前もって言いなさいよそれ……わぷわぷ……




 ええ、キレイになりましたわよ、身体がね。水洗いの後に温風も吹いてきまして、ちゃんと髪まで乾かしてくれましたわよ。便利な従者もいるものですね、なんでお父様はこういう人を雇って下さらなかったかしら


 う、うう……お父様、お母様、兄上様……



 あ、そう言えば兄上様のことはそんなに好きじゃなかったですわね。お顔が不細工な百貫デブでしたし、ワタクシが楽しみにしているデザートをいつもこっそりとつまみ食いしましたし。



 でもね、家族が死んで悲しくないわけないじゃない……う、ううう……



「今度はなあにお姉さん、泣いちゃったりしてなにがあったわけ?」


「お父様、お母様、兄上様が死にましたのよ……う、ううう……」


「あー、そこの(きたな)らしい首っコロのこと?」


「汚らしいって言わないでくださる? あれでもワタクシのとても大事な家族でしたのよ? 兄上様は別にそうでもないですけれどね」


「もう、面倒なものを拾ったなあボク。ヨシタニのやつ、恨んじゃうからね。それ」


 あら? スルトの手が光ったと思ったら、お父様とお母様に兄上様の首が生前と変わらないくらい綺麗になりましたわね。兄上様は首が綺麗に戻ってもデブの顔をしているから、そーんなには変わらないですのね。



「これでいい? お姉さん」


「すごいですわねあなた。それは手品ですの?」


「手品ねえ……まあ、魔法も手品みたいなもんってカガが言ってたからなあ。それみたいなもんだよ、お姉さん」


「ワタクシ、貴方より年上だからお姉さんで合っているのですけど、イザベラという立派なお名前がありますから、ちゃんとそれを付けてお呼びしなさいな」


「本当に面倒なお姉さんだね、わかったよ。イザベラお姉さん」


「宜しくてよ、オホホホ。あなた、ワタクシを助けてくれましたから、特別にイザベラって名前で呼ばせても宜しくてよ」


「はあ……もういいよ。じゃあ、イザベラ、この首っコロはどうしたらいいの?」


「そうですわね……どこか綺麗なお山が見えて、壮大な森林があって、空気も新鮮でお鳥さんが毎日さえずってくれて、それでいて美しい湖畔が宜しいですわ。あとね、そこにお花畑があると宜しいと思いますわよ? お母様がね、お花がとてもお好きでしたのよ。そんなところにお父様とお母様を眠らせてあげたいですわ。まあ、兄上様だけなら別にこの薄暗くて空気も淀んでいるここでも宜しいんですけれどね」


「面倒な注文だよそれ。そんなのは魔王領にしかないじゃないか」


「あらそうですの? ワタクシ、少女になってから王都に行かれて、それから王都を出たことがありませんので存じませんわ」


「もういいよ。とりあえずボクが預かるから埋めたいときは言ってね」



 あら、皆様の首が宙に消えたように無くなりましたけれど。この子は手品の達人なのかしらね。


お疲れさまでした。

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