説話3 勇者は案内人を見つける
古城の中は至るところに崩れ去った廃墟があるのみだ。
今はただのがれきの山だが、古は巨大な王宮と思われる場所を通り過ぎ、最初にそれを発見したのはあだ名が委員長と呼ばれる少女の若田だ。
「ねえ、人がいるよ」
若田の声に全員が彼女の指で指した方向へ走り出す。
開けた場所に誰かがうずくまってる。ここは古城の真ん中でたぶんお城の広場と思うが、今はそんなことを気にする場合じゃないと沼田は自分の考えに苦笑した。
「おい、大丈夫?」
短髪の少女が先にその人の場所に辿りつき、地べたに倒れている身体を揺さぶってみた。
「いきなり揺すっちゃダメでしょう? 夕実。怪我人ならどうするのよ」
「あそっか。ごめんね委員長」
「もう、わたしは委員長じゃないだってば、保健委員なの。それに若田明日花って名前があるの」
「あはは。ごめんね。アスカ」
明日花は夕実をひと睨みしたが、夕実が見せる調子のいい態度に思わず軽く笑みをこぼした。それからすぐに倒れた人の様子に目を向けて、伸ばした手をかざす。
「神のお力を借り、あなたに回復の光あらんことを。ヒール」
光が辺りを照らし、倒れている人が温かそうな光に包まれた。
「さすがは委員長の聖女ちゃんだぜ。ヒールの回復度ならおれの上だ」
「なんで金山が賢者でうちが戦士って未だに理解できないわ」
「そりゃ日頃の行いだろう、お前は手が早いからな。今度オークを連れて来てやろうか?」
「言ったな、こいつ」
じゃれ合っているようにしか見えない夕実と金髪の少年である金山の言い争いに、沼田は微笑ましく見てたが、明日花と同時に倒れている人がピクリと動いたことに気が付いた。
「おいっ! 大丈夫か!」
「……う、うう……あなたたちは?」
ヒールを受けた人はその顔を上げて、沼田たちを見回した。着てるものはボレ切れと言いてもいいような布の服、身体全体が薄汚れていて、どこをどう見たって清潔感が全くない。それでも沼田たちは声を潜め息を飲み、心の奥底から驚嘆せずにはいられなかった。
この世のものと思えないくらい美しく整えた顔。
ものすごい美少年がそこに居た。
「はああ、うち、この子とこの世界で生きようかな……」
「バカなことを言わないの」
夕実の囁きに明日花はすぐに叱咤した。心の中ではそう思わないでもない節はあるものの、沼田と金山がいる手前、仲間のことを気遣ってやれる、クラス一の世話焼きの本領をここでも発揮した。
「あ、だめだわ。おれ、この子なら男でもいいや」
「あのねえ……」
金髪の少年である金山が美少年へずっと目を向けてることに、美少年のほうはビクビクと送り込まれる視線に怯えていた。
「みんなもいい加減にしてよ。怖がっているじゃないか」
勇者の沼田が仲間を諫める言葉をかけてから、美少年のほうに声をかける。
「なあ、きみは誰? なぜこんなところにいるの?」
「ボ、ボクはスルトっていうの……ここにいるのはユウシャって人を待ってるの」
おどおどした声で美少年は自分の名前を沼田たちに伝えた。しかもスルトというこの美少年は沼田たちを待っているという。
「なぜここでスルトが勇者を待っているのかな? 教えてくれないか」
「うん……お兄さんたちは悪い人じゃなさそうだから教えるね。ボクは魔王軍に言われて、ここでユウシャって人を魔王城に連れて行くように言われたの。水先案内人をやれって」
沼田たちはスルトの返事に全員が無言で顔を合わせる。
見つけたよ、水先案内人。これで魔王城に行ける。魔王を倒して家族や友達の所へ帰れる。
全員が望まない旅路。その終わりの予感にだれもがむせて感涙している。
お疲れさまでした。