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説話26 元魔将軍はギルドの所長と別れる

「ウェリアルさん、起きてくださいな」


 スルトはしゃがんでから、未だに気を失っているウェリアルの頬を叩いたが、一向に起きる気配を見せない。そのためにスルトは別の手段を用いることにした。



「ウェリアルさん、ナタリーさんが実家に帰るって言ってますよ」


 それは事務の仕事を増やし過ぎたウェリアルに、怒ったナタリーが言ったセリフで、その時のウェリアルの慌てぶりにスルトは失笑してしまったことをいまでも覚えている。



「待ってくれナタリーっ! ち、違うんだ……って、ここは――」


 状況が掴み切れず、辺りを見回すウェリアルをスルトは根気よく待つことにした。ようやくなにかを思い出したウェリアルは、自分の右手と右足を交互で見ていた。その様子にスルトはウェリアルがオーガのことを思い出したと知る。



「スルトか……オーガは?」


「オーガ? ああ、死んじゃったね」


 スルトが手を伸ばして指で指すところにオーガの死体が転がっている。それらをしばらく眺めてからウェリアルは視線をスルトのほうに戻す。



「聞くまでもないが一応聞いておく。お前がやったのか?」


「そうだよ」


 隠そうという気もなく、微笑みを見せてスルトはウェリアルの問いかけに正直に答えた。



「お前は何者だ?」


「それは……聞くは気の毒ってことかな?」


「そうか……」


「うん!」


 よく考えてみれば、スルトは初めからこういう態度でウェリアルたちに接した。なにをしても当たり前のようで、たとえそれがウェリアルたちの予想を上回っていても、スルトからすればきっとそれが当たり前のことだったに違いない。



「どうする? お前さんは村に戻る気はあるのか?」


「ないですよ。このままどこかへふらふらしようかなーって」


「そうか……」


「うん!」


 飄々とした態度のスルト。ウェリアルは彼がこのままどこかへ去る気だと感じた。しかも、それは引き留めるべきではないことも悟っている。



「ありがとう、助けてくれたんだな」


「いいよ、お礼なんて。謝らなくちゃいけないと思ったんだ」


「謝る? なんのことだ」


「フフフ、聞くは気の毒ってことだよ」


 ウェリアルはこのとき初めて、目の前にいる少年のような者が、実はとんでもない大物であることを疑念から確信へと変わった。


 聞けばきっと教えてくれる。この少年のような者はそれを隠す必要がないと思ってるはず。だけど聞いたらきっとウェリアルのほうが後悔する、そう思わずにはいられなかった。



 そうか、だからこの少年は聞くは気の毒という表現をしたとウェリアルはこのときに理解した。



「どうであれ、お前さんは冒険者ギルドのパペッポ村出張所の所属冒険者だ。なにか助けが必要な時はいつでも来てくれ。おれはCランクのしがない冒険者だけど、力になれることは全力でするから」


「はい、ありがとうございます。所属はなにがあっても変える気はないから、ちゃんと冒険者ギルドのパペッポ村出張所を存続させてくださいよ」


「耳が痛いことを言いやがるなあ。オーガの死体はどうするつもりだ、お前さんのもんだよ」


「うーん、別にいらないなあ。緊急依頼はこなしたし、その分も合わせて所属ギルドに寄付するよ」


「豪気なことだ……っておい、緊急依頼ってなんのことだ?」


「それはギルドに戻ったら領主様とナタリーさんに聞いて? じゃ、ボクは行くね」


 まだ起き上がれないウェリアルの横に、スルトは異空間から取り出したミスリルの片手剣を置いた。オーガとの戦いでウェリアルの得物はボロボロになっている。



「おいっ! これ……スルト――」


「じゃあね。また縁があらばお会いしましょう」




 スルトは歩きながら思った。


 驚いてるウェリアルをここにおいても大丈夫だろう。すでに体力は全回復してるし、ウェリアルが寝てる間に少しだけど魔力で身体強化してあげた。今のウェリアルは、一体だけならオーガと互角の戦いができるはず。



 身体強化とミスリルの片手剣はスルトからのお詫び。あのオーガたちはきっと魔王軍の勧誘をことわった魔族、警告したにもかかわらず人を襲ったんだ。


 だから、オーガたちをスルトは処断した。


 魔王軍から追放されたといっても、スルトにとって、魔王軍の不始末は自分のミスも同然であることにかわりはない。



お疲れさまでした。

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