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説話24 元魔将軍は助けに急ぐ

「ナタリーさん、今までありがとうございました。宿の代金はここに置いておきます」


「スルト君、危ないわ。行っちゃ……」


 ナタリーさんはボクを止めようとしてくれたが、旦那さんを助けることに藁でも縋りたい気持ちでその口を閉ざした。うん、それでいいからね。



 異空間のカバンから取り出すフリして、ボクは自分が持っている金貨を一枚、カウンターの上に置いておく。たぶんだけどこれで足りるはず、足りなかったら勘弁してくださいね、ナタリーさん。


 え? 薬草採集依頼とポーション作りの報酬はって? そんなのいらないいらない。ポーション作りができただけでボクは大満足さ。報酬というのならそれだけで十分だよ。



「そ、それは――」


「じゃあ、緊急依頼へ行ってきます」


「ま、待ってく――」



 領主様がなにか言いかけていたが、それを聞くつもりはない。兵士たちもボクを止めようとしたけどもう間に合わない。ボクはナシアース・メリルに及ばないけど、魔王軍の中でも指折りの速さで知られているよ。




「ナタリーっ! あのスルトという冒険者は何者だ!」


「え? 学者の卵って言って村へ来たんですがそれがなにか……」


「これをみろ!」


 領主様はそう言って、スルトが残していた金貨を取り上げる。



「これは今は無き王国の金貨、こんなものがあっていいはずがない!」


「そ、それがなにか……」


 ナタリーに領主様の言っていることがまったくわからなかった。金貨なんてただの貨幣でしかないことが彼女の価値観。



「ふぅ……これはな、間違いがなければこれは三千年前に存在したアルクスラン王国の金貨。この外側に付いてる白銀(ミスリル)の帯を鋳造する技術はもう失われたんだ。しかもこのようなほとんど新品の状態で見つかることなど、それこそありえん」


「は、はあ……」


 ナタリーと領主様が今はここにいない不思議な少年のことを確かめるためには、彼がここにもう一度訪れる以外に術はない。




 まさかね、アルクスラン王国の金貨を知る人がいるなんて思わなかったよ。別にいいけどね。あんなものは異空間にどのくらい入ってるか、数えたこともない。それよりもすぐにウェリアルさんを探さないと。飛空魔法って、使い勝手いいのよね。


 さて、魔力探知だ。魔力を飛ばすっと……



 ――いた。わりと大きな魔力が十二と今にも消えそうな小さな魔力が一つ。


 あっちゃー、やっぱりウェリアルさんはオーガに捕まっちゃったか。まあ、死んでさえいなければ、ボクならどうとでもなるのよね。


 行くよ!




 ウェリアルは死を覚悟している、心残りは妻のナタリーだけ。強い彼女ならしばらくは泣き続けるでしょうが、きっとそのうちに立ち直ってくれるとウェリアルは信じている。



 オーガたちに右手と右足を食いちぎられた。血が流れ続けて今にも気を失いそうだが、オーガたちはウェリアルの左手で持つ片手剣を取り上げようとしない。わかっている、オーガは遊んでいるのだ。こうして、獲物をなぶり続けて、心が折れたときに一気に襲いかかってくるのがオーガの残忍な習性。


 ああ、一思いでやってくれるなら、こんなにつらい思いをしなくてもいいのになあ。ナタリー、おれの分まで生き続けてくれ……



 ん? オーガが襲い掛かってこない、どうしたのだろう。



「回復っと」



 薄れていく視野の中、なぜか聞き慣れた声がした。失われたはずの手と足が、にゅきにゅきと生えてくる気がする。そんなばかなことがあるか、欠損を治せる回復魔法なんて、王都にいる大神官クラスじゃないとできないぞ。



 ああ、なんだか……疲れ……これが、死、かな……


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