説話21 元魔将軍はポーションを作る
「これから行う作業が本当のポーション作り、煮詰めた薬草の薬水を瓶に入れてから魔法を込める。これだけは地方によって作り方に違いはあるし、一家伝承の秘方が存在するから君はこの部屋で作ってくれるといい」
「はい」
「幸いというべきか、以前に間違って大量の瓶を発注してしまった。今回で役立つとは思いもしなかったが好きに作ってくれていいからいくらでも瓶を使ってくれ」
「はい」
「おれは疲れたので悪いがちょっと眠らせてもらう」
「はい、おやすみなさーい」
「はああ……誰のせいで疲れたとおもっているのだか……」
トボトボと重い足を引きずって作業場から自分の部屋に戻る道具屋さん。ウェリアルさんとナタリーさんは無理しないようにと言って帰ったけど、無理なんてしていないよ? 楽しいからやっているだけですよ。
さあ、確かにこの作業は気を使う。かける魔法の分量を間違うとこのようにエリクサーが出来上がってしまうんだ。
――って、しまったーっ! 久々だから込める魔法の量を忘れてしまって、今はいらないエリクサーになっちゃったよ。これどうしようか、ナタリーさんにプレゼントして化粧水とかで使ってもらおうかな。
そういえば賢者のアシダがエリクサーは貴重な回復薬とか言ってた気がする。なにが貴重なのかよくわからないけど、エリクサー程度のもんならボクが作ったものは魔王軍の倉庫に積み上げるほどあるなんだけどなあ。
まあ、ここは賢者アシダの言ったことを聞き入れよう。このエリクサーは異空間に回収っと。
さあ、気を取り直して魔法を込めてみる。ここは手加減して少しずつとだな……
――しまったーっ! 手加減してもいつも作っているエクス・ハイポーションになっちゃったよ。欠損は治せないが全回復できるポーション、魔王軍では標準装備で支給するやつだ。ボクとしてはこのままでもいいけど、今回の目標はポーションを作ることだから、ここはやっぱり作り直しか。
はあ……ポーション作りがこんなに難しいとは思わなかった。まあ、そもそも魔王軍ではポーションなんて効き目がなさ過ぎで、あくまで薬草学の授業でしか作らないんだけどなあ。
再挑戦だ、頑張るぞボク。
ハイポーション……
これで勘弁してもらえないかなあ、ものすっごく神経を使うなんだけど。難しいよ、本当にポーション作りは難しい。だから人間はポーションをありがたがるんだね? よく理解できたよ、うん。
戦士のマスハラはなにか作業が終わる度によくミッションコンプリートとか言ってたけど、それは目標を達成しないと言えないよね。よしっ、頑張るぞお、ボクもポーションを作るんだ!
ポーション……いやったー! ボクにもポーションを作ることができたよ。
数十本のエクス・ハイポーションや百本を超えるハイポーションという大失敗を経て、ようやく辿りついたこの境地。さあ、あとは観念固定というボクだけの技を使って、これで込められる魔法量が一定となるはずさ。
ポーション。よし、完成。
ポーション。さあ、このままいくよ。
ポーション――
ポーション――
ポーション――
ポーション――
……そういえばさ、マスハラがよくモフモフは正義とか言ってたなあ。魔王領に獣人さんはいないからよくわからなかったけど、今度もし獣人に出会えたら触らせてもらおうかな。
あ、こういう細かい作業は雑念はよくないね、集中集中っと。
さあ、どんどん作っちゃうよ、ポーション。
お疲れさまでした。




