説話20 元魔将軍はポーション作りに取りかかる
あー、ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
それ、ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
回復薬作りはまず薬草をすりつぶす必要があるんだ。これが楽しいのなんの、なんも考えないでひたすらすりつぶすだけだからね。
あー、ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
それ、ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
「おいおい、手の動きが目にもとまらないくらい速さだぞ。なんだこいつは」
「薬草すりは一番疲れる作業だからみんなが嫌う……おい、ウェリアルっ! こいつをうちに雇わせてくれ!」
「無理だよ。こいつはうちの宿のお客で所属冒険者だぞ? ナタリーがいいって言うはずがない」
「くっそー……ナタリー姉ちゃんは怖いからなあ」
道具屋の作業場でウェリアルさんと道具屋さんがなにか言い合ってるが気にしない。とにかく楽しい薬草すりを続けるよ。
「はい、終わりました」
「……」
「はいってねえ。一年分はある薬草を夕方までにすり終えるってどういうことかと聞きたくなるけど……君、うちの道具屋で働く気はないか! 賃金はたっぷりはずむぞ!」
「まったくありませんっ!」
無言のウェリアルさんにボクから拒否されて床に崩れ落ちる道具屋さん。だって、人間の国に来てまだ間もないだよ? まだまだ色んな街を回りたいんだ。
「じゃあ、すり潰した薬草の煮詰め作業も君に頼むよ」
「はーい」
すでにウェリアルさんはなにかブツブツ言いながら家である宿に帰ってる。ボクは道具屋さんの言いつけで、これからすりつぶした薬草をお湯で煮詰めていく作業に取りかかる。
これもねえ、楽しいよ? とにかくかき混ぜるだけ。でもね、均一にかき混ぜるにはコツがあるんだあ。それを体得するまでボクは百年以上かかったからね。
さあ、かき混ぜるぞ。
あー、カキカキカキカキカキカキカキカキ
それ、マゼマゼマゼマゼマゼマゼマゼマゼ
そういえばさあ、魔王様はボクのものはそのままボクのものって言ったけど、大昔にくれた領地はどうしようか。面倒だからそこに住んでる魔族たちの自治領ってやつにしたけどね。
まっ、そのままにしておくか。どうせ帰らないしさあ。
あー、カキカキカキカキカキカキカキカキ
それ、マゼマゼマゼマゼマゼマゼマゼマゼ
「普通ね、こういう煮詰めの作業は薬草の持つ効果を最大限に引き出すため、最低は一週間はかかるんだ。……それを君……なぜえ、一晩で出来上がってしまうんだあそれも最高の品質でえっ!」
「わかりませんっ! かき混ぜたらできちゃいましたっ!」
「できてたまるかああああっ!」
絶叫する道具屋さんに心配で様子を見に来た無言となったウェリアルさん。
「あらあら、この子ったら、本当にすごい子なのね、偉いわ。よしよし」
「てへへ」
もう、ボクは一生懸命に頑張ったのに、頭を撫でて褒めてくれるのはやっぱりナタリーさんだけ。ウェリアルさんは相変わらず無言のままで道具屋さんは今でも絶叫しているよ? なんなの、いったい。
「そんなで……片付けるなああああ!」
お疲れさまでした。




