説話2 勇者は滅びの城に着く
時はさかのぼり、勇者たちは魔王城を目指してカラオス王国と魔王領の境目に来ている。
「ここが滅びの城だ、勇者」
崩れかかった大きな古城。城門だったところに錆びた大きな鉄製の扉がひしゃげて、至る所に激しい戦闘が繰り返された痕跡が今でも残る。
その前に立つのは四人の少年と少女たち。幼げな顔立ちは煤けていて、どこか疲れた様子を見せている。
その後ろには立派な鎧を着こんだ騎士団が控えており、一番偉そうにしてる中年の男が一人の少年に敬意のかけらもない口調で話しかけた。
「ナスターガ騎士団長、魔王を倒したら本当に帰還できるのか?」
「言い伝えではそうだ、だが実際のところは誰にも分らん。魔王を倒した奴はいないからな」
黒い髪をした割と凛々しい顔の少年はきつい口調で、ナスターガ騎士団長と呼ばれる中年の男に質疑するが、中年の男は一回だけ強く鼻息を荒らしてから勇者と呼んだ少年に返答する。
「……」
少年と少女たちはその言葉を受けて、全員が黙り込んでしまった。その中で長い髪をした少女が仲間のほうに向けて閉じてた口を開く。
「みんな、頑張ろう。わたしは帰りたい、みんなも帰りたいでしょう?」
「ああ、そうだな、こんなクソッタレの異世界なんかいてもしょうがない。帰れるかどうかは魔王を倒して確かめよう」
勇者と呼ばれた少年は、長い髪をした少女に返事をするとともに仲間に元気づける。勇者たちを見ていた中年の男は小さな笑みを顔に浮かばせたが、それは褒め称える微笑みではなく、軽蔑するような冷たい笑い。
しかし勇者たちがそれに気付くことはなかった。
「話がまとまったようだな。守ってやれるのはここまで、ここから先が魔王の統治する領地。魔王城まではお前たちだけで行け。お前たちと違って、俺たちにはチートとやらの能力はないからな。精々頑張ることだな」
「お前らがぼくらにしたことは忘れないぞ!」
嘲笑するかような中年の男からの別れ言葉に、勇者は恨みを含んだ怒声で返すが、中年の男はわざとらしい恐れているような表情を作り、両手を上にあげてから頭を振った。
「おお、怖い怖い」
「てめえええっ!」
中年の男の態度が気に入らなかったのか、勇者の横にいる金髪の少年が一歩前に踏み出すが中年の男は金髪の少年の襟に掴みかかると、両目をこれでもかと見開いて、顔を歪めて凄んでみせる。
「調子に乗るなよ小僧っ! てめえらにかかってる従属の術式は今でも効いてんだよ。殺してやってもいいが魔王は勇者しか殺せねえって相場だから、生かしてやってるってことを忘れるなよ!」
「畜生が……」
中年の男に怒鳴られた金髪の少年は悔しい涙を流したが、中年の男になんの感銘も与えていないことは明白だった。
「この城中にはミズサキアンナイニンってやつがいるらしい。そいつが魔王城まで案内してくれるって言い伝えだ。そいつを探し出して魔王城へ行って魔王を倒してこい。運が良ければお前らは故郷に帰れるだろうよ。じゃあな、お前らにお隠れになった男神様と女神様の恩愛あれってもんだ」
中年の男は捨てセリフを吐き捨てると右手をサッと上げる。それの呼応するように騎士団が一斉に滅びの古城を背にして、来た道へ揃えた歩調で歩き出した。
「ねえ、沼田君。どうする?」
「どうするって、ここまで来たらもう進めるしかないでしょう、若田さん。あの国に居たらもっと悲惨なことになりそうだよ」
騎士団がその姿を消してから、沼田と呼ばれた勇者の少年は静寂を保つ滅びの古城に目をやりつつ、自分に言い聞すように若田さんと呼ばれる長い髪の少女の問いに答えた。
「クソが……こうなったら一か八かだ。いくぜ!」
「待てよ、かなっち」
先まで泣いてた金髪の少年は古城の城門へ早足で歩き出すと、その後ろをずっと口をつぐんでた短めの髪をした少女が追いかける。
勇者と長い髪の少女は目線を合わす。先に行った仲間の後についていくように古城の崩れかけてる城門をくぐり抜ける。
お疲れさまでした。