説話19 元魔将軍は薬草を抜く
ボクが魔王軍にいるとき、自分で一番の切り札と思ってるのは見通しの魔眼。
そう、ぼくはこの世で有形なものであれば全てを見抜くことができる。生き物なら持っている能力、武器や装備ならその特性。だから、ボクに戦いを挑んできたやつらの弱点は、さらっとそれを見抜くことができる。
なぜそういう話をしてるかというと、いま、ボクはパペッポ村の外の草原で薬草を探しているんだ。
魔眼発動!
うん、草原に薬草が一杯だね。
さて、ここは賢者のマスダが教えてくれた通り、根元から土ごと掘り起こしてから異空間のカバンに入れておこう。
最初にラノベとかゲームとかのことを教えてくれたのは勇者のカガ、それこそ忘れてしまいそうになるくらい遠い昔の話。彼はこの世界でアイテムボックスとかインベントリーとか、そういうのは普通にあるものと聞いて、ガクンと肩を落としてたね。
そうなんだよね。空間魔法を習うなら異空間拡張は最初に学習するもの、人間であってもそれは変わらない。だから異空間のカバンなんてものは普通に入手できるし、ボクが今に持ってるやつはウェリアルさんが昔に使っていたもの。自分で作っても良かったけど、そもそも冒険者になる予定はなかったため、身の回りで使う物の用意は整えていなかった。
それにボクが使ってる異空間はそういう媒体すらいらない。欲しいと思えば取り出せるし、意識さえしていれば放るだけで勝手に入っていく。でも、これは魔王様が曰く、ボクだけができる技らしい。
どうでもいいけどね。
さて、薬草を掘るか。やっぱりこういう単純な作業は楽しいなあ、ホリホリ。
「……」
「……」
「……」
うん、ウェリアルさんとナタリーさん、それに薬草採集を依頼した道具屋さんが黙り込んでる。
ウェリアルさんがくれた異空間のカバンに薬草がこれでもかと入ってた。
だって、なんも考えないで同じ作業を黙々とやるのって、すっごく楽しいのよね。薬草なんて、いつも侍女さんが持ってきてくれたから、自分でやるなんて随分と久しぶりなんだよ。エヘヘ
「どうする? 道具屋よ」
「いや、どうするかって……おれ、こんなにたくさんの薬草代金は払えないよ。ここにある薬草って、軽く見て一年分はあるよ」
「まあ、この子ったら、すごいのねえ」
ウェリアルさんと道具屋さんは呆れた顔でボクを見ているけど、ナタリーさんだけは優しそうにボクの頭を撫でながら褒めてくれた。
ワーイ、褒められて嬉しいね。
それと、ボクが薬草抜きで夢中になって、一日過ぎても帰ってこなかったから、心配したウェリアルさんが草原まで来て、ボクを探しに来てくれたんだ。ウェリアルさんが言うには、周りにゴブリンらしき残骸が沢山あったらしいけど、尋ねられたボクは知らないよって嘘をついた。
本当はおぼろげに覚えてるんだ。
夜中に薬草を掘っていたら周りがギャーギャーうるさかったので、無意識に獄炎魔法で焼き殺したらしいね。ボクの魔法って、気に食わないことがあれば無意識でも発動するって、何度もガルスに怒られたよ。エヘヘ
「道具屋。お前が作れ、今ある全部の薬草を使ってポーションを作りまくれ。おれが領主様のところに売り込んできてやるから」
「無理だよ、一年分だぞ? おれ一人で作れるわけがない」
ウェリアルさんと道具屋さんはなにか言い争ってるけど、回復薬作りなら大の得意さ。勇者殺しと呼ばれて以来、たまにしかできなかったボクの大好きな作業だね。
「ボク、お手伝いしますよ」
久々に回復薬作りに励んでみようかな。
お疲れさまでした。




