外伝その二 元召喚勇者たちは集う
ここはどこにでもあるような居酒屋さん。
わたしたちと敦子さん以外に12人の歴代勇者さんが待ってくれてた。
思ったよりと少ないのね。
「よく来てくれた、異世界の勇者たちよ。
そなたらに我が国を救ってほしい、魔王を倒してほしいのだよ!
ってか? お前らもそれか?」
陽気に喋ってくれるのは加賀さんって人、異世界では勇者らしいけどそうは見えないわ。
加賀さんがいうには最初にゲームとかのことをスルトに教えたのが彼みたいなの。
金山君がなぜか悔しそうにしてるわ、おかしいね。ふふふ。
「ううん、違うの。
あたしらはいきなり従属の術式をかけられたわ」
夕実の言葉にわたしたち以外の勇者さんたちが黙り込んだ。
どうしたのかな。
「実はな、召喚された時期によって扱いが違うんだ。
おれら初期の勇者は大事にされたんだ。だからお前らみたいに囚われの勇者のことを聞くと心が痛いんだよ」
「へえ、囚われの勇者という言葉があるんですね」
加賀さんの言葉にわたしが答えると、増原さんという戦士を務めた男の人が頷いてから、わたしたちに話しかけてくる。
「ああ、僕も囚われ勇者なんだ。
あいつら本当にクソだよな。人を死地に送り込んでおいて、涙一つ流さない」
「本当にそうと思います」
増原さんに答えてからわたしは口を閉ざす。
いい思い出なんかなかった異世界転移、最後の日々をスルトと過ごしていなかったら、きっと転移のことを記憶の奥底に埋めてしまいたかったかもね。
「はいはい、暗い話はここまでね。
今日、あんたたちに来てもらったのは感謝を伝えたかったの。
スルトちゃんの写真も、刺された真実も、教えてくれてありがとうね。
陽子なんか大泣きしたからね。ね? 陽子ちゃん」
「スルトちゃん……うわーん」
敦子さんに言われて、福永陽子という綺麗な女性はお化粧を気にすることもなく、いきなり大泣きし出したわ。
「陽子はね、スルトちゃんとすっごく仲が良かったの。
だからスルトちゃんに刺されたことが信じられなくてずっと恨んでたのよ。
真実を知らされた時はもう、それは大変だったのよ」
「そうですか……」
陽子さんの気持ちはわかる。
スルトに刺される前に消されたみんなのことを思い出すと、わたしだってスルトのことを憎んだんだから。
「今日ね、来てもらったのは近くにいるメンバーの顔合わせ。
スルトちゃんの積もる話もあるけどね、二つのことを伝えたいのよ」
「はい、なんでしょうか?」
敦子さんの顔からパッと明るくなって、不審に思ったわたしは質問することにしたの。
「あなたたちのおかげでね、今までは地方でそれぞれの勇者たちがやっていたスルトを憎悪する会から、スルトちゃんに感謝を捧げる会に変わったの! いえーい!
それでね、記念すべき第一回はなんと、全国大会なのよ!
すごいことなのよこれぇ」
「はあ……」
なにがすごいなのか、わたしたちにはさっぱりわかりません。
「おや? この子たちはわかってないわね」
「そりゃしょうがないぜ。こいつら入会したばかりだもん」
加賀さんと敦子さんが残念そうに話してるけど、それよりわたしたちはいつ勇者の集いの会員になったのでしょうね。
「あなたたちね、勇者って何人いると思うの?
全国で数千人よ数千人。それが一堂に集まるのよ? すごいでしょう。
まあ、詳しい数字は平松さんしか知らないけどね」
「うおー、平松さんも来るんですか!」
翔君、あんたは平松さんに会ったことないでしょう。なんでそんなに興奮するのかな。
「来るわよ。平松さんは歴代勇者でも吉田さんに負けないくらい頭がいいのよ?
吉田さんが市会議員なら平松さんは会社の社長さんだからね」
「うおー! 滾るぜい!」
翔君、社長さんと市会議員に滾ってどうするのよ。わたしに滾りなさいよ。
「全国大会の日程は調整するからあなたたちは絶対に参加しなさいよ。
平松さんの統計から見て、どうもあなたたちが最後に召喚された勇者みたいなの。
色々と聞かせてもらうわよ」
敦子さんがわたしの身体を抱きかかえてくる。この人、温かい人なんだね。
「オッホン。
今日、来てもらったのは紹介したお方がいるから。それがもう一つの目的だ」
わたしが敦子さんに頬を抓られたりしているとき、増原さんが席から立ってしゃべりかけてきた。
陽子さんはとうとう机に突っ伏せて号泣してるけど、いつまで泣いてるのでしょうね。
「僕たち勇者の集いの会長、あの魔将軍スルトと唯一真っ向勝負した最強の転移勇者。
それが真田さんたちだ」
増原さんの指す方向に精悍そうな四人組が一番奥の席に座っていた。
異世界で鍛えられたわたしにはわかる。あの四人は間違いなく今でも強い。
スルトの本当の姿はこの四人が知っている。
お疲れさまでした。




