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最終説話 水先案内人は小さな勇者たちを出迎える

 長い戦乱の時を経て、人間の国にもようやく平和が訪れた。


 貴族という制度は過去の時代のものとなり、あの子たちはイザベラ共和国のイザベラ大統領の許でどの種族でも誰であっても、平等な身分が約束される政治体制を構築してるらしい。


 なんだか色々と苦労しているみたいだね。


 ぜんぶ諜報部からの風聞なんだけど。



 でもね、新たな政治制度は時の試練を必要とすると召喚勇者たちも言ってたから、人間の国はまだまだこれからだよね。


 魔王領だって、落ちつくまでにすっごく時間がかかったんだよ。


 まっ、それは人間たちが考えるべきことだし、ボクは口を出す気も手を出す気もないからね。



 ボクたちは魔王領に戻り、いつも通りに平穏で生きてるさ。




 一度だけ元魔将三人衆は天界まで行って、母神からお尻ぺんぺんの刑を受けてきた。


 父神はようやく母神に再会できたことに喜んでか、天地創世の時の神威が戻り、神らしくボクたちを出迎えてくれたよ。


 まあ、こいつはいつ浮気心が起きるかは知らない爆弾なんだが、すでに天界と地上の繋がりは母神によって遮断されているからね。


 死ぬまでここで大人しくしてろってんだ!


 ――神は死なないけどさ。




 魔王様がいなくなり、魔王領はいま、マ・オウフ自治国という国に生まれ変わった。


 ――え? 国の名前の由来はって? そんなの、一人しかいないじゃないか。聞かないでくれますか? そんな当たり前のことを。



 魔王軍はマ・オウフ自治国の初代首相の名で解体した。


 強大過ぎる軍隊はこの世界に必要なんてないね。魔族のみんなはそれぞれ行きたい場所へ行って、生きたいように生きるはず。


 民主主義じゃないけど、元々魔王軍はそういう自主的な自己意識を植え付けるために作ったみたいなものさ。



 マ・オウフ自治国の初代首相はだれかって? それはね。



「無理ですやん! 絶対に無理無理、ワテが国という元魔王領を統治することなんてできるはずもあらへんがな。

 嫌だからね? 引き受ける気は絶対にないからね!

 ……そうそう、人間の国にいるエルフさんたちに食糧を一年分を送ってえな。今まで戦争で大変らしいやん? すぐに届けてあげてな。

 それと、人間の国に外交使節団を出す用意だけはしといて、今度来る人間の子供による訪問団の返礼や。

 あとな、警備隊諜報部は引き続き人間の国を監視することは怠らずにな、なにが起こるかわからへんからな……

 ――無理って、絶対にできへんからなワテ、初代首相はほかの人に当たってな」



 そういうことで今はブッチャク首相がマ・オウフ自治国の最高施政者というわけさ。




 アガルシアスは人間の国にいるんだ。旧魔王領に来ていたナルと人間の国の旅の途中でばったり再会したバルクスを連れてね。


 なんでも旧魔王領にもう心を躍らせる強者がいないからあ、自分より強い奴に出会いたいらしいけどさ、いるわけないよそんなの。


 母神以外にガルスと勝負できるやつと言えば、ボクかメリルしかいないじゃないか。


 まあ、気が済むまでのんびりとぶらり旅をするがいいさ。



 メリルはいうと、帰って来た当初はボクの部屋でウロウロばかりしてた。


 ものすごくうっとおしいからブッチャク首相にお願いして、新設されたマ・オウフ自治国総合大学の総長という役職を押し付けてやったよ。


 勇者養育のときから思ったけどさあ、あいつは教育に向いているのよね。



 セクメトはね、森の遊園地の最深層でルシェファーレと一緒に楽しい日々を送ってる。


 この前はボクに新刊をもらうためにきたのはいいのだけど、自分でも書き始めたから読んでほしいとさし出したのは、ルシェファーレと合作で書いた男と男が絡み合う小説なんだ。


 そんなの見たくもないから突き返そうと思ったがなぜかそれをメリルに押収されたんだ。


 迷宮の奥底で二人はなにをやっているだか、楽しいならいいけどね。



 マーガレットについてはもうボクは諦めてる。


 マ・オウフ自治国観光省第三課の課長という役職がありながら、あいかわらず毎日旧魔王領に来ていたアウネと一緒にボクの部屋のお掃除をしてるんだ。


 まあ、仕事はちゃっちゃと終わらしているから誰も文句は言えないからいいけどさあ。


 そうそう、アグネーゼがエルフの酒を持ってたまに遊びに来るんだよ。


 ボクは飲まないけどメリルがその度に一々くるのよねえ。うっとおしいけど、いっか。



 ボク? ボクはいま、マ・オウフ自治国観光省第三課第四係の係長補佐を引き受けてるよ。


 職場もね、マ・オウフ自治国によって元通りに再建されたアインベルトバルク城なんだあ。



 ――今日が初仕事、はりきって頑張らなくちゃね。




 アインベルトバルク城の美しい広場に人間の子供による旧魔王領への訪問団がやってまいりました。


 さあ、気合を入れるよ。



「こんにちは」


「こんにちは!」


 子供たちは元気だね。


 うんうん、子供はこうでなくちゃね。ミールもエアリスも元気にしてるかな。



「ぼくはゆうしゃクラスのエベスシュタイン。まおうをたおしにきたんだ」


「そっか、強いんだねエベスシュタインくんは」


 鼻水を垂らしている男の子がいきなりボクに元気な声を張り上げてきたから、微笑んで褒めてあげたんだ。



「あたち、せいじょクラスのアリス。みんなをたすける」


「おれはせんしクラスのアレッキサンドル。おれがみんなをまもる!」


「わたし……けんじゃクラス……ソフィリア……まほうでまおうたおしたい……」


 微笑ましい子供たちだね。養育した勇者たちの子供時代を思い出すなあ。



「貴方たち。今日は――」


 子供の訪問団を引率している女性が焦りながら何かを言おうとしたが、ボクは右手を上げてそれを制止したんだ。



「小さな勇者たちよ、ようこそ滅びの城へ」


「「「はーい」」」


 うんうん、全員が声を揃えて答えてくれたね。


 元気があってよろしい、子供はそれが一番だよ。




「さあ、魔王を倒すためにこれから魔王城まで行かなくちゃいけないんだ。

 そこまでの道のりは険しいんだよ?

 この先はミズサキアンナイニンであるボクが案内するね。

 ボクの名前はねえ……」



 今までの召喚勇者のお兄ちゃんやお姉ちゃんたちの顔を思い浮かべながら、ボクは笑顔とともに自分の名前を告げる。



「スルトだよ」







お疲れさまでした。本編はこれで全て完了致しました。

明日に掲載予定の外伝三話は本編とは直接関係ないのですが良かったら読んで下さい。

最後までお読みになって頂き、ありがとうございました。

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