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説話176 勇者たちは未来へ向かう

「どうだ、投降した人たちは」


「うん、多くは家のことが気になるから帰りたいって言ってるね。

 独身の人は残りたいって希望してるよ」


 ぼくことアールバッツはエルネストの回答を得てから、勇者の全員と今後についての会談を続行する。


「で、みんなはどうしたい」


 ぼくの問いにエリアスとレイミーは手をあげた。



「あたしたちはここに残り、アダムス様とご神堂を守ります」


「ぼくもここに残って、エリアスとレイミーとともにこの場所を守っていくつもりです」


 それと同時にたてがみが生えてきたライオン族のクームも挙手する。



「オレ、世界を回るギャ。回りながら困る人を助けるギャ」


 ゴブリンファイターのバルクスは持っている巨大な両手持ちの剣を掲げる。



「ナルはね、アウネとアグネーゼと一緒に魔王領に行くの」


 妖精のナルはアールバッツの前に飛んでくると両手を後ろに組んでから楽しそうに微笑する。



 アールバッツはアグネーゼから話を聞いていた。


 彼女の先祖は大昔に魔王領に住んでたらしく、冒険者ギルドのギルド長であるレイヤルドから今は帰れることを聞いて、同じ族人を無くした彼女、ミスト・アグネーゼはみんなの代わりにいにしえの故郷を見に行きたいという。


 アグネーゼは子供の時からずっと日々を共にしてきた。


 アールバッツはそれを聞いた時に寂しさを感じたが、それ以上にエルネストからアグネーゼへの報われない恋心を憐れんだ。



「あたしとミールは同族を助けに旅に出かけるね。

 悪いが後のことはあんたらに頼むよ」


 ベア族のオリアナとキャッツ族のミールは勇者としてワルシアス帝国を回った時に、獣人族の扱いで悲しい思いをしてきた。


 だから戦士である二人は、これからは同胞を助けながら獣人族の生きる道を追い求めていきたいと、生涯で初めて立てた夢に燃えようとしている。




 エルネストはアグネーゼがいなくなることで泣いたと思うけど本人は否定してた。


 真っ赤な目をしてなにを言うかと思ったけどそこは長年の仲間だ、黙っててあげるよ。


 エルネストは十数人の仲間を連れて、これからはイザベラ姉さんを補佐していくとぼくに話してくれた。



 イザベラ姉さんはスルト兄さんのことを死んだと決め込んでるけど、ぼくらは信じてない。先生たちがそんなことで死ぬような人じゃないことは、ぼくらがだれよりも知っている。



 それにイザベラ姉さんは悲しいというわりには相変わらずご飯のお代わりをしっかりとしてるから、あれはスルト兄さんが死んだなんて本気で思っていない証拠。


 ぼくはスルト兄さんから頼まれているんだ。


 ペットは適切な運動が必要なので、たまにはイザベラ姉さんを森のダンジョンへ連れて行けって。スルト兄さんのお願いだから、それはちゃんと守るつもり。


 ところでペットとはなんのことなのかがぼくにはよくわからない。




 ――夢は人それぞれとスルト兄さんは言ってくれた。


 ギディオンのようにカラオス王国とワルシアス帝国を倒すまでは同行する子もいれば、妹のマルスやダライアスのようにずっと一緒にいてくれる子もいる。


 今はバルクスたちのように、自分だけの未来図を描ける仲間は少ない。だがいつかは自分の夢と目標を果たそうと旅立っていくかもしれない。



 ぼくたちはずっと今までのように一緒にいられない。それを教えてくれるためにスルト兄さんたちは行動で示してくれたんだね。


 寂しい……ずっと一緒に甘苦の時間を過ごした人たちと別れていく。




 ここにはぼくらの思い出がいっぱい。


 悩んで眠れない夜にマーガレットさんはいつも熱いお茶を入れてくれた。


 セクメトさんは居間にいて、いつもぼくらと遊んでくれた。


 メリル先生は何でもできて、ぼくらが喜ぶお菓子を午後のおやつに作ってくれた。


 ガルス先生は言葉少なめだけど、剣の道を先生から教わった。


 リビングアーマーさんやデューさんたちと行く森の遠足、森の遊園地ではしゃいだあの一時、どれもあなたがくれた宝物ばかり。



 ぼくらのそばで頭をいつも優しく撫でてくれたスルト兄さん。


 あなたから沢山のものをもらったけど、なによりも嬉しかったのはぼくらにくれた深い愛情。


 スルト兄さんに出会えたことがぼくの人生で一番の幸せ。



 ――涙が止まらないよ。



「ねえ、大丈夫?」


 隣にいるフィーリが心配そうにぼくの手を握ってくれる。


「ああ、大丈夫だ。愛してるよ、フィーリ」


 これから一緒に人生を共にする彼女にぼくはそっと抱きしめた。




 ごめんね、スルト兄さん。あなたに言ってないぼくら全員が共有する秘密があるんだ。


 元魔王軍の魔王直属情報部長のマーガレットさんはあなたのことを内緒でみんなに教えてくれたんだ。



 ぼくはあなたの教えでこれからも勇気をもって人々のために険しい道の先頭に立ち、死ぬまでにあなたたちから教わったすべてのことを使って、これからは人々を導いていく。


 それが勇者になる決意をしたあの夜に、マルスと共にあなたからもらった勇気。



 元魔王軍序列三位の魔将軍、通り名は地獄の水先案内人のアーウェ・スルト。


 これからもずっとあなたの弟子でいることが一番の誇りです。



 ぼくの名は魔王を倒した、大勇者のアールバッツだ。



次話が本編の最終話です。お疲れさまでした。

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