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説話170 女神は語る

『スルト……(たばか)ってくれたわね』


 女神フレーア様は機嫌がちょっと悪いみたいね。


 だって、こうでもしないといつまでもその中に隠れたままだもん。女神なんだからさあ、ちゃんと働かないと。こういうの職務放棄っていうらしいんだよ?



「もういいじゃないですか。どれだけ長い間引きこもりをやってきたと思ってるのさ」


『そうね。貴方たちには迷惑をかけたみたいだわ。ごめんなさいね』


「滅相もない。われ、再会を嬉しく思う」


「本当だよ。楽しかったからいいけどね」


 ガルスもメリルもどこか嬉しそうだった。


 女神様の再臨こそがボクたちが長年にわたって追い求めてきたことなんだから。




『フレーアああああ!』


 空から一直線にここへ爺さんが飛んできた。男神のやつだよ。


 ――こらあっ! てめえはそのまま隠れていろ!


 そう言いたいところだがこいつは地上に隠れたらまずいんだ。


 拳にありったけの魔力を込めてっと。



「フンっ!」


『グハッ!』


 女神様に抱きつこうとする男神。


 その寸前にボクがその腹に最強の魔力を込めた腹パンをくれてやった。やつはそのまま地面に倒れ込んで失神した。



「こいつを連れて帰ってよ、もう二度と地上に出さないで。

 本当にこいつがいると世の中が大迷惑だよ」


『ええ、そうするわ。

 ところでスルト、なにかわたくしに言うことはないかしら?』


 女神フレーア様は責めるような目で見つめてくる。



「――ごめんなさい。母神(ははなるかみ)


『ええ、許します。わが愛しき子スルト』


 女神フレーア様は地面に倒れている男神フレーの野郎を見てから、止まったままの勇者たちを含め、この場にいるすべての生き物を優しい瞳で眺めている。



『フレーが人間を偏愛し、全ての生き物に平等の愛を与えないことにあんなに怒ったのにね、今はもうなにも思わないわ。

 黒の衣の中にいて、貴方たちがいて、魔王領で楽しい日々を送って、もうこのままでもいいじゃないのって思ったの。

 でもそれが貴方たちを苦しめていたのね……

 母神として恥ずかしいです』


「いいえ、全てはこいつが悪い。

 でも母神も職務放棄の罪で罰を受けねばなりません」


『グハッ』


 ようやく気が付いて、起き上がろうとする男神に、ボクは腹の虫が収まらないので、その腹に魔力全開の足蹴りを入れてやったら、男神がまた気絶してしまった。



『そう……その罰とはなんでしょう』


「こいつを連れて、もう二度と地上に来ないでください。

 全ての種族は自分たちの力で歩んでいけますから自由にしてやってもいいと思う。

 もう……神々の時代はとっくの昔に終わったんだ」


『……』


 女神様は寂しそうにもう一度この場にいる生き物に目を向ける。


 その間にボク、ガルスとメリルは黙ったまま女神様を見ているだけ。




『そうね……スルトの言う通りだわ。

 あんなに無力だった生き物たちはわたくしがいなくてもここまで成長できたものね、逞しい子供たちですわ……

 ええ、天界に帰ります。そこから生き物を見守るとしましょう』


「ありがとう、母神」


 女神様は暗黒の森林へ目をやり、たぶんルシェファーレがいることに気が付いたのだろうね。



「別に連れて帰らなくてもいいじゃないかな? 天門が開くこともないでしょうし」


『そうね、ルシェファーレなら生き物の営みに興味はないのでしょう。

 ――わかったわ、彼が地上に留まることを許します』


「ありがとう。ルシェファーレも喜ぶことでしょう」


『ところで貴方たちに聞きます。魔王はどうでしたか?』


 女神様はボクたちに魔王だった女神様のことを聞きたかったから、ここは素直に答えよう。


 ここで言わないともう二度と聞かれなくなるし、ボクたちも抱いてきた気持ちを言えなくなる。



「魔王様といられたことがこのスルトの生涯最大の幸せでした」


「われ、魔王様の永遠なるしもべなり」


「そんなの言わなくてもわかるでしょう? スルトが出て行かなかったら、あたしはずっとそのままでもよかったのに」


『そう……ありがとう』


 女神様はとても満足した顔でボクたちに微笑んでくれた。


 女神様の微笑みはこの世でもっとも美しい光景の一つだよ。



 ――でも、まだ用事は終わっていない。



「母神。勇者たちに最後の女神の加護を与えてください!」


『そうですね。あれがなければ魔王もスルトの動きに気付いたのでしょうね。

 わかりました、勇敢な勇者たちにわたくしの加護を授けましょう。

 それとスルトが作ったわたくしの像があるみたいけど、そこで祈ればきっとわたくしから変わらない恩恵を受けられましょう』


「ありがとうございます」


『いいえ、黒の衣は太古の時代のわたくし。時代が変わったのならその流れに沿いましょう。

 わたくしはそれでいいのだけれど、貴方たちに言いたいことがあります』


 女神様がボクたちを睨みつけた。


 ――なんだ? なんだかちょっと怒ってるみたいけどどうしたのかな。



『天界が貴方たちを閉ざす門は存在しないわ。

 だからね、一度は帰ってらっしゃい。

 やっぱり腹が立つのでお尻ペンペンしますからね』


「われ、それは御勘弁願いたい」


「いーやーだ! スルト! あんたのせいだからね!」


「は、ははは……」


 ――なんでだよ! ボクは頑張ったのにい!



お疲れさまでした。

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