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説話164 王子は輝かしい夢を見る

 カラオス王国とワルシアス帝国の二ヵ国連合軍は、先遣部隊の帝国貴族であるバスティア子爵と王国貴族のビュッヒナー子爵が、それぞれ150名の騎士と輸送部隊を含む1850名の歩兵を連れて、沈黙を守っているヴァツルス辺境伯の領地を通り過ぎた。



 ヴァツルス辺境伯は今回の戦いに参加していない。


 先遣部隊が領内を通った時もまるで無人の街を行くように、領民を見当たることはできなかった。ヴァツルス辺境伯アルフォンス自身は騎士団を率いて、先遣部隊と挨拶したが、それはどこか最後の言葉を交わすような雰囲気だった。



 ビュッヒナー子爵は領地の農民が税を払わないからお金に困っていた。


 領地から家臣たちが強制徴募した農民兵を連れて、王国が貸し付けてくれた白金貨500枚でどうにか兵糧と武器装備を揃えることができた。莫大な借金をした彼は先遣部隊を国王から申し付けられた時は心が躍った。


 誰よりもより先に略奪ができるからだ。



 今回の戦いで新天地という金銀財宝に満ちた抵抗することのできない農民しかいないところ。


 好きなように略奪行為を働ける指令をビュッヒナー子爵は国王から授かっている。略奪で借金を返済して裕福な資金があれば、彼は領地に戻り、軍備を整えてから税を払わないけしからん農民に制裁するつもりでいた。



 バスティア子爵のほうも似た事情を持てたので、両名はここまで仲良く進軍を続けた。


 できれば歩兵を置き去りにして、家臣団だけで新天地に行きたいと彼らの気持ちは逸っている。平民の兵士は略奪行為しても得た金銭は領主にさし出すという義務が課せられてるため、戦争が起きたときは兵士は女を犯すことに専念するものだ。



 華やかな明日という夢しか見ていなかった先遣部隊を、次々と湧き出すリビングアーマーが包囲した。



「デューさんたち。騎士は殺してもいいけど、歩兵たちには手を出さないでね」


『承知。』


 ビュッヒナー子爵とバスティア子爵はやってくることのない華やかな明日を夢見たまま、家臣団と共に物言わぬ首のないしかばねとなった。



「はーい。きみたちはいいかな?」


「ひーっ!」


 包囲するデュラハンとリビングアーマーに震えあがって、お互いを抱き寄せてる兵士たちに美しい顔の少年が声をかけた。



「ご飯を食べに行かないか?」


「ひーっ!」


 少年が気軽にお食事誘っても兵士たちは怯えたままだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 先遣部隊からの連絡が途絶えてしまっても、総大将第五王子のブッタクサは特になにも思わない。


 どうせ略奪で夢中になっていることだろうとしか思っていない。不審に思っているカラオス王国第一騎士団のナスターガ騎士団長は偵察部隊を出すようにと進言しても、ブッタクサは面倒くさそうに手を振るだけで、進軍を速めるようにしか命令を出さない。



 イザベラ・ゼ・メリカルスという有名な悪役令嬢と婚約したことでケチが付いた。


 顔もまあまあだったし、なにより胸が大きかった。王子と婚約するために裏で色々とやらかしたことは知ってたが、それほど自分と婚約したいと思っているところは可愛いとも思えた。



 それがどういうことだ。


 メリカルス伯爵家は勇者の罪人となり、一家断絶となってしまったではないか。そんな罪人の婚約者などいらない。


 だからイザベラが頼ってきたときは婚約の破棄を言い渡した。そのときにイザベラ・ゼ・メリカルスの信じられない顔がとても面白かったので、今でも思い出したら、ブッタクサは笑いそうになる。



 しかしあとで考えたときに惜しいことをした。


 あの罪人女と一発やっちゃえばよかったんだ。弄ぶだけ弄んでからライバーン伯爵に突き出せば、さらなる恩を売ることもできたのに、若いときの自分は血の気が多かったと悔やむところだ。


 だがそれはもういい。



 その後でブッタクサと婚約したい貴族令嬢は現れなかった。


 やっと妃をもらったと思えば伯爵家の行き遅れの不細工な女。イザベラとかかわって以来いいことはなにもない。しかし今回は違う。武功さえ立てればブッタクサにも輝かしい人生が始まるはず。父である国王に認められれば、次期国王に指名されることだってあるんだ。


 先遣部隊のビュッヒナー子爵に会ったら、略奪した物は巻き上げてやるつもりで総大将第五王子のブッタクサはとても楽しそうに笑っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おい、どこまで行くだよ」


「暗黒の森林じゃないの?」


「嫌だな、魔物と戦うのかよ」


「違うって。なんか新天地に豊かな農民がいっぱいいるから、そいつらを成敗しに行くってよ」


「それも嫌だな、おれも農民だからな」


「まあな。ロクなもんじゃないよ」


 夜の警備を担当している歩兵はつまらさそうに雑談をしてた。


 今回は国同士の戦じゃないから夜襲されることがないため、行軍中でもどこか気楽さが漂っている。



「――おい」


 急に小さな声がしたので、二人は思わず緊張してしまって、持っている槍を落としてしまった。



「声を出すな、おれはフレルクだ」


「フレルク! お前、どうしたんだ?

 ビュッヒナー子爵様の部隊にいたじゃないか」


「ビュッヒナー子爵は全滅した、騎士団は皆殺しされた」


「――!」


「声を出すな、おれは知らせに来たんだ。

 今回は絶対に負ける。相手は化け物どもだ。

 でもおれら兵士は降伏さえすれば助けてくれるって言ってくれたんだ。向こうがやりたいのは騎士団だけでおれらは関係ない。

 それをみんなに知らせろ」


「無理だ。信じてくれないだろう」


「これ食ってみろ」


 フレルクはとても香ばしい肉を兵士の二人に渡した。二人がそれを食べると信じられない美味しさに絶句してしまった。



「先遣部隊の兵士は毎日これを食ってる。

 いいか? 噂を流せ。戦いになったら農民軍と戦うな、国を裏切ってもいい。

 農民軍はおれらを殺さないし、望むなら新天地という素晴らしい所に住んでもいいって。

 おれはまだ結婚してないから、そこに留まることにした」


「フレルク、その話を信じてもいいか?」


「死にたくないなら信じろ。長居するとお前らもヤバいからおれはもう行く。

 今度は違う人が来るはず、その時に同じ噂を聞くことになると思う。

 じゃな」


 フレルクという男が少し離れた所に立っていた小さな影の所へ行くと、フレルクと小さな影は二人の兵士がたちが見守る中、いきなり夜空に舞い上がり、これから進軍していく新天地のほうへ飛び去った。



 それから間もなく二ヵ国連合軍の兵士の間にある噂が流れるようになった。


 命が惜しかったら農民軍と戦場で戦うな。


 降伏すれば命は助かるし、美味しいご飯が食べられる。



お疲れさまでした。

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