説話17 元魔将軍は冒険者になる
「おう、客か。珍しいな」
「もう、あなたったら。お客様の前でそんな言い方はないでしょう?」
「はははは、そうだな。すまんすまん」
「しっかりしてちょうだい、お客様はすごくいい子なんですからね」
「それにしたってこんな寂れた村に来るやつは珍しいぞ、見たところでガキだしな」
「学者の卵ですって。色々とお勉強したから、おばあちゃんに世界を見回ってくるようにって言われたってよ」
「そうか、そいつはえらいな。でも、こんな物騒の世の中で大丈夫か?」
「あたしもそれを心配したわよ。でもね、なんでも護身程度の魔法が使えるから大丈夫って言ってたの」
「おお、魔法使いか、そいつあすげえな。魔法使いは普通、王国国立魔法学院に通わないと大した使い手にはなれないけどな」
「そうね。村でも幼馴染のワズテグールが素質あると子爵様の援助を受けて、立派な魔法使いになって子爵様に仕えてるけど、まだ幼く見えるこの子は大丈夫かしら」
ナタリーさんは帰って来た髭面の旦那さんと話し込んでる。
ボクはテーブルに座って料理を少しずつ食べるフリをしてるんだ。ばらけているけど異空間に入ったらちゃんと元の形に戻るように魔法の設定をしてるのよね。なんでそんなことをするって? だって、せっかくの料理がいつ使えるかわからないじゃないか。
ナシアース・メリルは体が細そうに見えて実は大食い。彼女のおやつはいつもボクが異空間に貯め込んである料理の数々。だからなのでしょうね、いつの間にかこういう習慣になっちゃったんだ。
「よう、坊主。ようこそパペッポ村に来てくれた」
「こんにちは。ボクはスルト、学者の卵です」
「礼儀正しい坊主だな、感心感心。おれは冒険者ギルドのパペッポ村出張所のギルド所長ウェリアルだ。まあ、冒険者ギルドの所長といっても登録している冒険者はおれとガキの時からの遊び仲間のアージャズだけだ。魔王領に近いから誰も所属したがらないんだ。しかもあいつは畑仕事しかしないやつだから、ここの冒険者は実質おれ一人だけだけどな。ははははは!」
「へえ、冒険者ですか。それ、ボクも登録できませんか?」
「ああ? いやまあ、登録するのは誰でもできるけど。坊主、大丈夫か?」
「なにがですか?」
「いやな、冒険者になったら最低限の依頼を受けないといけないんだよ。一年内にDランクの依頼を最低でも五つは達成しないといけない。言っちゃなんだが、お前さんみたいな華奢な坊主ができるとは思えないけどな」
「Dランクの依頼って、どんなものがありますか?」
「まあ、採集なら薬草だな。討伐ならゴブリンが一般的だ。あとはその街から一般の人が出す雑用の依頼がほとんどだがこんな村だ、そういう雑用の依頼なんてないぞ」
「じゃあ、大丈夫です。ボク、薬草を取って来るのが得意ですから」
「そうなのかっ! そいつあ、助かるぜ。ここで冒険者の登録していくか?」
「はい、お願いします」
髭面のおじさんがなぜか大喜びしてる。実はね、薬草取りが得意というのは大ウソ。だって、蘇生の魔法以外はどんな回復の魔法でもボクは使えるから、ポーションとかそういう回復薬は邪魔なのよね。
蘇生の魔法は神の禁忌、やろうと思えばやれないこともないけど絶対にやらない。
だって、いなくなった魂を取り戻すことは地獄を統治する暗黒神と大ケンカになっちゃいそうなんでとても面倒くさい。
でも召喚勇者だけは違う、元々この世界にいるべきじゃない魂だからねえ。だから送還のナイフには蘇生の効果が付いてるんだ。
回復薬ならエクス・ポーション作りは大の得意だよ。ほら、魔王軍って、血の気が多いやつらがうじゃうじゃといるのよね。ケガなんてそれこそ日常茶飯事で、エクス・ポーションの需要ってとても多いんだ。
戦士のカガミは異世界に来て冒険者になりたかったってボクに言ったことがある。カガミ、あなたの夢はボクが叶えてあげるよ。今からボクは冒険者ギルドの登録冒険者になりますからね。
あ、テンプレというやつの絡みは残念だけどないよカガミ。だって、この髭面のおじさんはとても人が良さそうだからね。
お疲れさまでした。