説話161 国王は酔い痴れる
「ええい! 民どもはなにを考えておる! このカラオス王国に逆らって生きていけると思うか!
それと偽勇者どもはどうした? はよあやつらの首を斬らぬか! 近衛騎士団はなにをしておるのじゃ!」
ヌッジャウチャ四世はなにやら喚き散らしておるが、宮廷魔法総長であるウィービルは自分が仕えている国王を見て、ため息をつくだけじゃ。
各地で農民たちが国や領主に支払う税を拒み、それを取り立てる役人たちも村々へ行きたがらない。
どれも勇者という者が現れてから起きたことじゃ。
いや、そもそもグリュック村で国の軍隊が虐殺を働いたのがいけなかった。あれで民がこの国に対して今まで見せなかった憎しみをあらわにしたのじゃ。
いまさらそれを言っても詮無いこと、宿敵であるワルシアス帝国もカラオス王国と変わらない局面にある。あそこにも勇者と称する者たちが現れて、民のことを助けながらカラオス王国と同じように民をそそのかしておる。
――曰く、民よ立て。自分の自由を手に入れよ、自分の意志で生き方を選べよ。自立せよ、虐げてくる敵は自らの手で打ち倒せと。
その敵となるのは言わなくてもわかっておる。カラオス王国とワルシアス帝国じゃ。勇者と称する者たちは明確に国を相手にケンカを売ってきたのじゃ。
追手をさし向けておるがほとんどが勇者と称する者たちに打ち破られた。騎士団で追跡するにも相手は少数ですぐに逃げられてしまう。
貴族どもの不満が高まるつつで、領地から税が入ってこないことは彼らが浪費する金がないということじゃ。毎日のように国王へ直訴する貴族が後を絶たない。
問題があっても自分たちでどうにかしようとは思わないアホどもじゃ。
さらに勇者と称する者たちは暗黒の森林に新天地があることを民に噂をばら撒いておる。それがまずかったのじゃ。
王国も帝国も領地を出ようとする民が次から次へと増え続け、このままではいずれは国として成り立たなくなる。
腐り切った国とはこういうものか、まさか自分でそれを見るとは思わなんだ。
「そうじゃ。偽勇者どもは暗黒の森林に新天地があるとか抜かしおったな……
そこがあやつらの本拠があるに違いない。バカな奴らめ、自分からそれをバラしおって」
それはわしも思ったがどうもおかしい。わざと誘い込んでおるようにしか思えないのじゃ。
「ワルシアス帝国に使いを出せ! あいつらも偽勇者どもに手を焼いておると聞く。
これを機に二国の大軍を持って一挙に殲滅してくれる。
その後で民どもに国を背くことはどうなったかを思い知らせてくれるわ!」
「やめなされ。まずは偵察に近衛騎士団をだしてはどうか? 先に敵情を知ることが大事ですぞ!」
「そんなくどいことをしておる場合か!
そうじゃ! 貴族たちにも知らせよ、あいつらにも出兵させよ。
豊かな土地と偽勇者どもはほざいておったが、それが本当なら貴族たちもさぞかし喜ぶであろう」
「陛下!」
「くどいぞウィービル、もう決まったことじゃ。
そうじゃな、第五王子のブッタクサが武功を立てたいと申しておったな。
ナスターガ騎士団長をつけてあいつに総大将をやらせてやろう。
ライバーン伯爵もこの前のことでわしが助けてやったからのう、ここは出てもらわんと困る」
「陛下! おやめなせれ、今の国に出兵する余裕なんてないですぞ!」
「余裕ならあるではないか、偽勇者どもがいう新天地に金銀財宝があると言いふらせば、貴族たちは喜んでついて来るぞ?
どうじゃ、わしは年を取っても賢しいのう。ワルシアス帝国にもそう言ってやれば、あの金の亡者は必ず出てくるわい。
はは、わはははは!」
「陛下……」
もうこのクソじじいを諫める気にもなれん、どうせなにを言っても聞く気はないだろう。
貴族どもの顔色をうかがい、酒と女に溺れる毎日。国をよくしようとしたあの青年国王はどこに行ってしまわれたであろうな。
さてはて、今回の戦で誰がなにを得ようであろう。
どうしても誰かが裏で操っているような気がしてならんが、なにが目的かはさっぱり見当がつかん。
この戦の結末はなんだろう。
勇者と称する者たちがいう新天地という場所が戦火に塗れるか? それともカラオス王国とワルシアス帝国がこれを機に崩れ去ってしまうのか……
わしの考え過ぎじゃな。
腐りきったとは言え国は国、農民がどうこうできる話ではない。叶うことなら失われる民の命が少しでも減ればいいのにのう。
お疲れさまでした。




