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説話160 村長は家族の墓を作る

「ここのダンジョンは稼ぎがいい上に安全だ。

 わしはここで冒険者ギルドを作ってよかったと思ってる」


 イザベラ村は前から冒険者ギルドができてた。


 村人たちはいつまでもボクたちが教えるのじゃなく、冒険者ギルドに登録してさ、有料なんだけどギルドによる技術伝授を受けられるから、レイヤルドに相談したら本人が来たんだ。



 それからはトントン調子で、イザベラ村冒険者ギルドの設立がレイヤルドの手によって進められた。


 この冒険者ギルドにはSSS級ランクの冒険者とS級ランクの冒険者がいることを、冒険者ギルドの本部が宣伝した。


 そこでカラオス王国に止まらず、ワルシアス帝国からも冒険者たちがここへ来るようになったんだ。


 ところでイザベラはいつS級ランクの冒険者になったのかな。



「オホホホ。

 そんなに畏まらなくてもよろしくてよ、このイザベラ・ザ・エレファンツは皆様のお手本になってもよろしいですわよ。

 オホホホ」


「イザベラ殿、名前はイザベラ・ジ・エレガンスじゃ。

 以後、間違わぬようにな」


「あら、そうでしたっけ? まあ、レイヤルドギルド長も近頃は耄碌してますわね。

 ワタクシの名前はイザベラ・オブ・エントランスですわよ。

 オホホホ」


「……イザベラ・ジ・エレガンスじゃ。以後、間違わぬようにな」


 うん。レイヤルドが来てくれてからようやくわかったけどね、どうもペットはイザベラ以外に下の名前にこだわりはないみたいだね。


 それがわかっただけでも冒険者ギルドは設立してよかったよ。




 勇者たちが各地へ旅立って時が過ぎ、カラオス王国とワルシアス帝国からの圧政に耐えかねて、住んでいた村を捨てて、こっちへ逃亡してくる難民が増えてきた。


 アルフォンスも便宜を図ってくれて、ヴァツルス辺境伯にさえたどり着けば、そこで食事や衣服の提供を受けてからこっちにやってくるんだ。


 そんなわけでイザベラ村は今、人々の熱気であふれているのさ。




「ねえ。イザベラから預かった首っコロはどうする?」


「あら、そうでしたわね。スルトちゃん、あなたにお暇はありますかしら?

 兄上様はともかく、今からすぐにお父様とお母様を眠らせてあげたいですわ。

 さあ、行きましょうか」


「わかったよ」


 ペットは今日も元気で健在。


 お暇あるかと聞いておいて、すぐに行くとはどういうことかな? それなら別に聞かなくてもいいじゃないかな。


 まあ、イザベラだからいいんけどね。


 それと、ペットの兄の首っコロもさっさと埋めちゃおうよ。こんなものはボクもいらないからね。




「どうするか? 確かに綺麗なお山が見えて、壮大な森林があって――」


「それはもうよろしいですわよ。ここでね、お父様とお母様にワタクシが頑張ってますことをずっと見ていてほしいですのよ。

 まあ、兄上様の首なら別に森の中に捨てて、野良犬のエサになっても全然かまいませんわよ」


 ボクとイザベラはボクたちが住んでいる場所からちょっと離れた丘みたいな所まで来てるんだ。


 イザベラはここで首っコロを埋めたいならボクもそれを尊重しよう。



「スルトちゃん、墓石は作って頂けないのかしら。

 まあ、兄上様のはそこに落ちている木の枝でもいいですけれどね」


「はいはい」


 地面に触れて魔力走査。

 

 うん、いい石があったね。一気にここまで持ってくるんだ。まあ、ついでだからイザベラの兄の分も作るけどさ。



「名前はどうするの?」


「いいですの、お名前はいりませんわ。

 イザベラのお父様とお母様だけでいいですのよ。

 メリカルス伯爵家はねえ、もうありませんから」


 イザベラはボクから目線を逸らし、遠くを眺めているように流れている雲を見つめてる。



「ワタクシね、スルトちゃんにワタクシを助ける機会を寛大にさしあげて本当によかったと思ってますわよ。

 それから辛い思いで苦労して、勇者様たちを一人で育て上げて、あの子たちが旅立ってからはイザベラ村に住む人たちの面倒を見ながら、スルトちゃんたちもちゃんと養ってきましたのよ。

 ワタクシ、本当に頑張りましたわ」


「……」


 うーん、色々と言いたいことがあるんだけど、イザベラが物思いに耽っているから今は黙っていよう。


 帰ったらちゃんとシツケしてあげないと、ペットの妄想がますますひどくなってきたよだね。



「だからね、ワタクシはイザベラだけでいいですのよ。

 この名前でこれからも頑張って生きてみせますわ」


「そう」


 イザベラはボクに微笑んでくれた。心が強い女性はいつだって美しく見えるのさ。




「そうそう。兄上様の墓石に刻むお名前ですけどね。

 いけずで卑しくて嫌らしくてデブでアホだけど、臭くてケチで思いやりもなくて――」

「長いよ、もっと短くしてよ」


「オホホホ」


 イザベラはとても楽しそうに笑ったよ。


 本当にイザベラはイザベラなんだから。



お疲れさまでした。

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