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説話158 勇者たちは卒業する

「スルトがそう決めたならそれでいいんじゃない?」


「われ、異議はない」


「スルト様の思いのままになさいませ」


「ウチはいいよお。やってほしいことがあるなら言ってね」


 ボクはメリル、ガルス、マーガレットにセクメトと勇者候補たちのことについて意見交換している。ボクが彼と彼女たちを卒業ってやつをさせてやりたいと提案したら、みんなから反対意見は出なかった。



「じゃあ、明日はみんなに伝えるよ」


 まあ、元々ボクから始めたわけだし、これは協力してくれたみんなへの意思確認だけなんだ。()()が終われば、ボクたちは強力な魔族なので、この地に留まるつもりはない。




 体育館に集められた子供たちは遠足か、はたまたダンジョン遠征かと集合した理由を言い当てようと楽しくおしゃべりしてる。青年になったアールバッツは普段からみんなをよくまとめていて、彼女である聖女のフィーリも実によくアールバッツを支えてるんだよね。


 ……付き合ってるのなら二人は交尾してくれないかな。交尾するときにボクを呼んでほしいな。



 ボクが台の上に上がるとみんなはいつものようにボクに視線を向けてきた。


 今日はボク一人だけ、ほかの先生たちには出席を遠慮してもらっているのさ。


 マーガレットのことだから、きっと今頃は先生たちをお茶会にお招きしてると思うね。



 さあ、終わりの言葉をみんなに送る。これでみんなは勇者候補じゃなくて、勇者になるんだ。




「やあ、みんな」


「こんにちは! 園長!」


 いつもと同じ元気いっぱいの声だね。


 これが聞けなくなることを思うと、ちょっとだけ寂しさを感じるよ。ずっとこの子たちと一緒にいたからね。ボクの人生からすれば短い時間だけど、でもきっとこれはかけがえのない歳月なんだ。



「今日できみたち勇者の教育は終わる。

 おめでとう、きみたちは全員が勇者さ」


「……」


 ボクからいきなりの言葉に全員が口を開けたまま固まってしまってる。最後までこの子たちは本当に可愛いね。



「今、人間の国では大変なことになってるんだ。ここできみたちが学んできたことを人々たちを導くときに使ってほしい。

 各地で苦しめられてる人に手を差し伸べ、未来への光を示してやりなさい」


「ぼ、ぼくらはなにをすれば……」


 アールバッツが聞いてきたね。


 ――うん、答えてあげるよ。



「全ての組は30人ずつだから、これで30組の勇者パーティができるんだ。

 アールバッツだけはフィーリたちのパーティに加わりなさい。もっとも危険度の高い王都と帝都の近くにある村々で人々に手を貸してあげなさい」


「はい……」


 どうしたのかな? みんなは急に元気がなくなったね。



「胸を張って、前を向きなさい。

 きみたちは先生たちが心血を注いで育ててきた強者揃い、驕りさえなければ負けはしないさ。

 それと今日から魔法を唱える時は神の名を借りない。ボクの名を借りて唱えなさい。

 それで今までにない力を感じるはずさ」


「はい……」


「知識と技能はできるだけ教えたし、イザベラ村でもきみたちはよく村人を手助けしたね。

 それを今からカラオス王国とワルシアス帝国で苦しめられてる人たちを助け、勇者の勇気を示してやりなさい。

 順番や担当する地域はよく話し合ってから、自分たちで決めてくれればいい。

 きみたちは自ら勇者と名乗る時がきたんだ」


「……」


 ――おや? 泣いてる子が現れたてきたよ。



「魔王が敵なら魔王を倒せ。国が敵なら国を倒せ。

 自分たちの目で周りを見て、耳で囁かれている声を聞いて、自ら口を開いて思いを語りかける。

 教えるべきことは全て教えたつもり、あとはきみたちが本当の勇者になるため、自分たちでこの世界を見てきてほしいんだ。

 きみたちは勇者だけど、まだ駆け出しの勇者さ。立派になって、イザベラ村が危機になったらここに戻ってきてほしい」


「はいっ!」


 台から降りて、ボクは子供たちの近くまで行く。


 長話は嫌いからこれで終わりにするさ。




「行き先の村々で人々に伝えよ! 暗黒の森林に新天地あり、苦しいと思うならそこへ向かえと。

 そこには腹一杯になるほどの食べ物がたくさん、誰から虐げられることがなく、人々は神々の名のもとに幸せに生きていけると広めよ!」


「はいっ!」


「うん、これで終業式は終わる。

 きみたち勇者は本当によく頑張ったね。アーウェ・スルトはきみたちを誇りに思う」


 ボクの話が終わると、子供たちが大泣きしながら一斉にボクのそばへ駆け寄ってきたんだ。



 立派な大人になった最年長のフィーリも顔いっぱいの涙を流して、まるで子供の頃に戻ったみたい。


 こういうときはね、優しく頭を撫でてあげるのさ。


 これが最後のナデナデだからね、みんな。



お疲れさまでした。

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