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説話157 元魔将軍は決意する

 世の中を変えてしまうきっかけなんてちっぽけなものかもしれない。


 旧メリカルス伯爵領で現ライバーン伯爵領は領民に対して厳しい税の取り立てていた。



「――もうないですよ、先日に取りに来たばかりじゃないですか。

 おれらはもう全てのものをさし出しましたから」


「ほう……お前の言い訳を借りれば、出せる小麦粉も食べ物もないということだな」


 ライバーン伯爵領の小さなな村で、税を取り立てる役人と若い農民が押し問答している。



「そうですよ、だからもう勘弁してくれ」


「それならなぜおまえが生きている?」


「は?」


「食べ物がないというのならお前は飢え死にしてるはずだ。

 それがなんで生きているんだ」


「そ、そんな……

 おれらに死ねってわけか……」


「死ねとは言わんよ。税を出せばいい話だからな」


 冷笑する役人は絶望する農民を眺めてるときにそれは起こった。



「――ありましたぜ! やはりこいつらは隠しておりました」


 役人と一緒に来た者が僅かな小麦粉を入れた袋を嬉しそうに民家から担ぎ出した。



「やっぱりあったではないか、領主様をないがしろにしたことは罰を与えなばならんな。

 そうだな……来月に追加で倍の税を取りに来るから、それまでに用意せい」


 役人が付きつける過酷な命令に若い農民は生きる希望を失ってしまった。だからなのか、彼はついに決心する。


 ――おれも死ぬけどお前も死ねと。



「うおーつ!」


「な、なんだお前! 反抗すると――」


「死ねええ!」


 若い農民に触発されて、村人は一斉に役人たちに襲い掛かった。


 抵抗らしい抵抗ができないまま、役人たちは農民たちが振り下ろす鍬や鋤でなぶり殺された。




 ライバーン伯爵から協力を求められたカラオス王国のヌッジャウチャ四世は宮廷魔法総長の進言を退けて、王国きっての精鋭である近衛騎士団がライバーン伯爵領へ派遣し、グリュックという名の小さな村で起きた反乱は瞬く間に鎮圧された。


 村人は逃げることすら許されないまま包囲されてから、赤んぼやお年寄りを含む村人全員が容赦のない攻撃をくり出す近衛騎士団に虐殺されてしまった。


 その首は王都カラオベルクに持ち帰られ、王都の大通りに晒されていた。



 王国は反乱した者がどうなったことかを知らしめたかったのだろうが、グリュック村の消息は王国全土を駆け巡り、王国内にある村々はこういう仕打ちが自分たちに降りかかるかもしれないという恐怖に怯えていた。


 ――やられる前にグリュック村のように一矢を報いることはできないか。


 そういう気持ちが民の間で秘かに芽生え始めていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ボクは草むらの上で空を見ながら寝そべている。



 子供たちを育てると思った時からすでに八年の歳月が流れ、魔族以外に一番年が若かったエリアスは今、12才になった。


 聖女である彼女は深く神々を信仰し、ゴブリンのレイミーと一緒に神々にお祈りを捧げる彼女たちは、イザベラ村で神堂の双聖女とまで呼ばれている。



 カラオス王国で起きたことはヴァツルス辺境伯アルフォンスからも聞いてるし、マーガレットにも調べさせていた。


 子供たちが成長するにつれ、勇者パーティ教育学園は自主学習のほうが多くなってきているため、ボク自身も時折り人間の国のへ各地の様子を見に行ってるのよね。



 人間の国はもう限界に来ている。


 腐りきった果物は形が崩れていくのみだね。魔王領は相変わらず平穏な日々が続いていると思うけど、それは魔王様が居てこその話。そこに魔族が自発的な意思もなく、魔王軍は魔王様に言われたことをやっていくだけ。それは作られた平和なんだ。



 世界はこんなものじゃない。もっと自分の思いで生きれる自由な世界であってもいいはず。



 ボクと子供たちの日々は終わるだけど、人々が思い描ける世界はこれから始まってほしい。


 ――勇者パーティ教育学園はこれで終業式さ。



お疲れさまでした。

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