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説話156 宮廷魔法総長は懊悩する

「ええいっ! なにが呼ばれしのオーブを寄越せだ!

 ワルシアスのやつらめは血迷いおったか! 聖剣と賢者の杖は我が国にあるのじゃ、無礼な使者どもの首を斬れぃ!

 それをワルシアスのバカ皇帝に突き返せ! 神より授かった御力で勇者どもを召喚するのは正当な後続者である我が国じゃ」


 カラオス王国の国王であるヌッジャウチャ四世は怒り狂ってるが、宮廷魔法総長のウィービル(わし)は冷ややかな目で彼がお仕えしている国王を見ておった。



 誰かは知らないが愉快なことをする者もこの世におるものだのう。


 失われて久しい聖剣と賢者の杖が玉座に置かれて、早朝に掃除する宮女によってそれらは発見されたというのじゃ。



 本当なら喜ばしいことであるはずじゃが、国王であるヌッジャウチャ四世はなぜかしかめっ面であった。本当に魔王が倒されるかもしれないと悩んでいるのかのう。


 貴族の顔色を窺うバカな王様とわしは思ったがそれを口に出すことはない。



 国王が思い悩んでるときに冒険者ギルドから知らせが入った、どこかの森にある冒険者ギルドの総本部で聖剣と賢者の杖が発見されてしまったというらしいのう。


 国王が対策をどう立てようかと考えているときに、今度は早馬で急報が入ってきたのじゃ。



 なんと、ワルシアス帝国のほうでも聖剣と賢者の杖が現れて、ワルシアス帝国のほうから勇者を召喚するための呼ばれしのオーブを寄越せと使節団が帝都を出発したとのことじゃった。



 わしは思った。


 ワルシアス帝国でも冒険者ギルドでもそんな厄災みたいで、誰も幸せになれない石なんて欲しい所にくれてやれと声を張り上げたいのじゃ。



 だけど古代に統一国だったアルクスラン王国を継ぐという正当性を主張するカラオス王国は、アルクスラン王国の象徴であった呼ばれしのオーブを手放すはずもないってことをわしは知っておる。



 腐敗し、膿だらけのカラオス王国とワルシアス帝国は意味のない戦争を繰り返して、貧困に喘ぐ民を顧みることもない。


 貴族どもの中には近頃のヴァツルス辺境伯領やウッガンズ子爵領のように民を大事にする者もおるが、そんなの珍獣のようなものじゃ。王都にいる貴族からも彼らのことは笑われておる。



 悲しいものよのう。


 裕福な生活を保障されている貴族に農民たちの貧しい生活を想像しろというのほうが難しいかもしれん。ましてや領地のことを家臣に任せっきりで、自分は王都で華やかな生活を送っておる大半の貴族に民のことを考えろって言うのほうが無理があるかもしれん。



「わしも老いるわけじゃ。愚痴が多くなったもんじゃのう」


 しかし世の中には理解できないことが多々とあるのじゃ。どこの誰かは知らないがのう、同時に聖剣と賢者の杖が三ヶ所に現れればどれが本物かわからん。どれも偽物かもしれんし、どれも本物かもしれん。


 なんせ、王宮に現れた物は間違いなく神の金属と言われるオリハルコンで作られておるからのう。




「冒険者ギルドの者を呼んでまいれ。

 そやつらが持っている偽物の聖剣と賢者の杖を献上させよ!」


 ムチャクチャな国王はなにか喚いておるようだがそれは御無理がある。


 エルフどもは人間の混乱を喜ぶ。太古の時代にエルフ狩りを人間はしておったから、今でもエルフどもは人間を警戒しておる。



 そのエルフどもが手にした魔王を倒せる秘宝である聖剣と賢者の杖を手放すわけがない。一国の主である国王がそれを理解できないなんて、耄碌にもほどがある。



「ワルシアスの無礼な使者どもの首をさっさと斬らぬか! わしが斬りに行っても良いぞ」


「おやめなされい、国の使者を理由なく斬れば戦になりますぞ」


 とりあえず使者を斬ることだけは止めてみせるとわしは思ったのじゃ。


 先立っての戦争がやっと終わったというのに、また戦を起こす国力などカラオス王国もワルシアス帝国もないはずじゃから。



お疲れさまでした。

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