説話155 元魔将軍は変化を見る
薬草の苗を植えていく。
サクサクサクサクサクサク――
薬草を収穫していく。
ヌキヌキヌキヌキヌキヌキ――
薬草をすり潰していく。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ――
薬草を煮詰めていく。
カキマゼカキマゼカキマゼ――
楽しい作業はずなのにボクはなにもさせてもらえないんだ。ボクに残されているのは泣くことだけ。
シクシクシクシクシクシク――
まあ、泣かないけどね。
もうね、ポーション作りはイザベラ村の人も交えての一大事業なんだ。
売るのはもちろんエリック商会だけど、エリック商会はほかの貴族や商人から目をつけられないよう、にヴァツルス辺境伯の専属商会となって、辺境伯領内にある商人たちにポーションを卸売りするだけの商売にしているらしい。
朝になったらイザベラ村から働く人たちがさらに広くなった薬草畑に来て、みんなで薬草の栽培や雑草抜きの仕事をする。会社のほうではボクの指導で摘み取った薬草の洗い作業や煮詰め作業を行っている人たちが忙しく働いてるんだ。
子供たちはいまでもポーション作りに参加しているよ。魔力操作の練習になるからね。
子供たちが作ってるポーションや畑と会社の使用料にということで、エリックから今まで通り総売り上げの四割はくれるって言ったけどね、そんなにいらないから一割をもらうことにしたんだ。
その分、働く人の賃金を上げてやってって言ったらさあ、エリックがまた感動して大泣きしていたね。
エリックは本当によく泣くね。子供が産まれた時でも泣いていたよね。あんなお猿さんみなたいな弱い赤んぼの泣き所はあるのかな。
――あっ、わかった、赤んぼが弱すぎて泣いてたかもね。
ごめんね。エリック。お詫びに今度その子に身体強化を施しておくよ。
アルフォンスのお願いで、ヴァツルス辺境伯で家を継げない男や職のない若い女たちがこっちに出稼ぎに来てるのさ。
その人たちのために、イザベラ村に村人たちがボクが作った子供たちの寮を参考して男子寮と女子寮を建てた。木で建ててるから安全のために平屋にしてるけどね。
「スルトさん、こんにちは」
「はい。こんにちは」
道行く顔だけ知っている箱詰めが仕事の若い女性たちから挨拶されたよ。今から仕事に行くみたいだね。
彼女たちもよくボクの顔を見てさわいでるけど、ボクは毎朝ちゃんと顔を洗ってきれいにいるよ。おかしい顔はしてないはずさ。
イザベラ村はどんどん大きくなっていく。
イザベラは午前が勇教園の先生で、午後からは村にある村長執務室で働いてるんだ。夕方になると食事を求めて寮に帰って来るが、その後はジャックたちの要望を聞いたり、ヴァツルス辺境伯から来た役人と協議したりして、毎日深夜まで忙しく働いてるのよね。
ブルンブルン腹回りがみっともないからペットの管理は飼い主の責任ということで、この前は森のダンジョンお運動させるために連れて行ったら、ダンジョンの中にいるときはずっと大喜びしてたね。
「やあ、おはよう」
「園長さん! おはようございます!」
勇育園のほうは今、アルフォンスとジャックから熱望で、ヴァツルス辺境伯領やイザベラ村からの園生を受け入れてるんだ。
一般教科ならイザベラ村にあるイザベラ聖学園で受け入れてるが、神学科目や家庭科目などの専門科目を受けたい子供のほうはこっちに来てるのよね。
魔法や剣術も教えてるけど、別に勇者を育成をするわけじゃないから、基礎を中心に授業を行ってるのさ。
まあ、勇者候補の子供たちには厳しい訓練を受けさせてるけど、すでに基礎体力を鍛え上げた子供たちは授業を楽しそうに受けているみたい。
色んな人と出会い、交流をしていく中で勿論ケンカや意見の食い違いはあるけど、それを含めての人生。それも勇者候補としての訓練だとボクは思っている。
ボクとメリルたちは魔族なんだ。
人間との価値観と大きな差があるから、いつまでも勇者候補たちとは関われない。勇者候補たちが大人になっていくにつれ、いい人と交友するだろうし、悪い人とも会うかもしれない。
でもそれは勇者候補たちが自分で確立させるべき自分だけの人生観だから、ボクは口を出すつもりなんてない。
だって、自分の人生だからね。
「さあ、今日も元気よくやろう! らじお体操行くよ!」
「はーい!」
召喚勇者たちがやってたのがこれなんだ。とても良い習慣なので子供たちにもやらせてるんだよね。
――元気よく今日も子供たちと一緒に頑張っちゃおう!
お疲れさまでした。




